第17話 人体解剖図と裸体の素描は基本でしょ?
僕、フェン・アザレアの親族は、正式にレーヴェンの流れのみになった。
書類上、僕には父親がいない事になっている。
主神様がお認めになった女神の子だから良いんだそうだ。
まぁそんなとんでも理屈が通る神聖王国である。
主神様(母神様)のお名前は、人には名乗らないそうで、母神様でいいそうだ。
そんな主神様と十二人の子である神々が、この世界にはいらっしゃる。
一柱 男神 ジュリアード 太陽と光りの神(火の神)
二柱 女神 ロレイア 月と夜の神
三柱 女神 フェルミェ 水と緑の神
四柱 男神 アスラン 技術技能の神(軍神)
五柱 女神 エイダラ 食と薬の神(医神)
六柱 男神 アウグスト 繁栄と豊穣の神(美食の神)
七柱 男神 メイジャ 知恵の神(学問の神)
八柱 男神 セーブル 海の神(航海の神)
九柱 女神 オリヴィエ 山の神
十柱 男神 メッシモ 獣の神
十一柱 女神 ルルン 美の女神
十二柱 男神 ジュール 娯楽の神(この世界を作られた神様でもある)
代表的な神様の権能、守備範囲をあげただけで、神様のお力はこれだけじゃないそうだ。
大体は人間の中で知られている能力だね。
主神様のお力も多岐に渡るから、これって言うのは無いけれど、多くの人は愛の神であるとしているよ。命の神ともいうね。
ここに追放神と邪神が加わる。
追放神 元主神様の夫神 混沌と創生、変革の神様だね。
邪神 自称愛の女神と名乗る騒乱と不和を齎す神、虚飾という欲の檻を作り出す。
そんな神様の勉強をしている。
レーヴェンのロザリンド母上の部屋でだ。
嫁いだ後、改修して母上の肖像画等が飾られている北向きの部屋だ。
北向きだけど、暗い部屋じゃない。
とても美しい山脈に林、そして湖も見える絶景のお部屋だ。
陽射しも入る設計になっているけど、なにより蔵書や美術品を飾るのに向いている。
北側なんだけど、湿気が少ないんだ。
どうもこの北側の敷地は、硬い岩盤と地熱が少々高い場所なんだそうだ。
だから、冬場でも雪が溶けて積もらない。
そして地形的に風も吹き込まず、傾斜から陽射しも入る。
つまり方角的にはよくないけど、実は良い部屋ってこと。
ここで午前中は勉強をして、お昼を食べたら作品のための模写や素描をかく。
あとはお散歩かな。
乗馬や剣術はドラクレシュティへいくまでお休み。
ぽよぽよした体だけど、前より少し減ってきたよ。
おやつも控えめだからね。
『呪いが消えたのもあるのじゃ』
と、今日もルルン様は、様子見に来てくれている。
今日は薄い桃色の布を神像に巻いて、オシャレに結んでみた。
可動ギミックにするのもありかな?
『ツインテール希望じゃ』
ルルン様美人顔なのに、ツインテール?
『うむ、一度ギャルというものに変身してみたかったのじゃ』
なるほど、だから女子高生だったのかな。
じゃぁ次は魔法少女な感じかな。
面白そう、へへっ。
「楽しそうだな、フェン」
叔父さんは、早朝から鍛錬をしている。
加護モリモリの寵愛人生だけど、叔父さんは真面目だ。
真面目に鍛錬している。
ちょこっと遠目に見たけど、拷問みたいな鍛錬だった。
叔父さんのお顔は王子様顔なのに、体が世紀末な救世主みたいなのは、それが原因かもしれない。
まだ、パースとかバランス的におかしくないのは、きっと元がモデル体型?だからだとおもう。
つまり黄金比のパーフェクトな手足と腰の位置なんだ。
極端なブレもないし、偏りもない。
その叔父さんが鍛錬やらお仕事やら、拷問を終えて休憩に来た。
横領していた役人のお調べで、久しぶりにスイッチが入ったのと、あの奴隷姉妹の売り渡しや密輸に関わった輩も発見できて、イケイケだったらしい。
血塗れではない所を見るに、きちんとお風呂の後のようだ。
そして今日も外見だけはキラキラ王子だ。
緑の瞳ってすごいよね。
あれで瞳の奥が淀んでヘドロみたいにグルグルしてなかったら、本物の光りの王子様みたいなのにね。ざんねん。
そんな王子でキラキラで、ワイルドなイケメンを見る。
解剖学的な筋肉のつき方や動き方をわかっていると、立体造形に嘘がなくなるんだよね。
生きてる人で、こんなに歪みのない骨格の人っている?
武器をふるったり、防具をつけてると自然と歪むだろうし。
これも恩恵とか寵愛効果?すげぇ。
「どうした?」
「うん、叔父さんの裸体の素描と彫刻がしたいです!」
珍しく、叔父さんが絶句した。
「坊ちゃま、それは坊ちゃまがよく言う、アウト案件にございます」
「なんで?」
「同性であっても、神聖王国では、裸婦や裸体がモチーフの芸術品は、神々のお姿や神の教えの場面などを描く場合に用いられるのです。」
「つまり人体、裸はエロ案件になる?」
「坊ちゃまの口から出てはいけない単語です。アリス様にお仕置きされますよ」
アズラエルの補足の間も、叔父さんがフリーズしたまま動かない。
「ごめん、叔父さん。
単に、叔父さんの造形が完璧だったから、スケッチしたいし、彫刻にしたいなぁって。
叔父さんの背中なんて、見たこともない完全な筋肉のつきかたじゃない?」
「私めは、発言を控えさせていただきます」
「下着ありならよくない?ナニは想像で補うよ」
「その発想もアウトでございます」
「男同士なのに?」
「閣下、どのあたりまでご教育を?」
それに大きな溜め息を吐くと、叔父さんが頬を片手でぬぐった。
「フェン、この国の道徳や常識などは、アリスに教わっているだろう。その中に、服装や人との距離、してはならない事などは、どんな風に教わったかな?」
えっと常識?
アリスは諜報活動もできるレーヴェンの貴族女性だけど、生粋の間諜ではない。
色々嗜んでるだろうけど、出身はれっきとした貴族だ。
教えてもらったとされる常識は、その範囲だと思う。
「えっとぉ。
女性は赤ちゃんからお年寄りまで、礼儀をもって対する事?
適切な距離と、個人的には身内以外の人とは二人きりにならない。
えっと手袋をしていない女性の手に触れちゃ駄目だし、呼びかけたりする時も触っちゃ駄目。
距離は2人分ぐらいあけて、お話する。
挨拶は、爵位とか立場を考えて声をかける。
わからない時は、素直にわからないことを謝る。
女性の特定の部位だけを見るのは駄目で、容姿を褒める時も、相手に不快にならないようにすること。直接的な、容姿を話題にしない。
それから、男性側の服装も、肌をみせないようにする。
女性も、肌を見せない。
肌が見える部位によって職業や身分がわかるから。
お付き合いしたい場合は、先に御付きの者に知らせる事。」
「同性間の距離感はどうかな?」
「謎の質問だよ、叔父さん。
同性なら、相手の爵位、身分に合わせた対応をするだけだよ。」
「距離感だ」
僕はわからないので、首を捻った。
そんな僕の反応を見て、叔父さんはアズラエルに言った。
「あの愚かな男は、わざと抜かしたか?」
「いえ、多分、接触が少なく、教育の抜けなど気にもかけなかったのでしょう」
「どういう事?」
ちょっと不安になって二人に聞く。
「血統継承多重スキルホルダーは、あらゆる意味で特別だ」
「加護が多数の神々による人物の事です」
「加護持ちの子は、加護もちになりやすいのは理解できるか?」
「うん、わかるよ」
「そして加護持ちの知己になる。
加護持ちの親族になる。
加護持ちの愛人になるのは、虚栄を満たすだけではない。実利があるのだ」
「ちょっと怖くなってきたから、先に聞いちゃうけど。
この世界って男性が妊娠出産するような設定とかスキルはないよね?」
「坊ちゃま、それもアリス様に仕置される発想です。
残念ながら、神聖王国の民で、男性で出産した者はございません。
決して神々に望むなどという事はなさいませんように」
「ちょっとホラーだもんね」
「違います。
そういう意味合いではありません。閣下、お願いします」
「お茶の用意をしてくれ」
すごいため息が二人から漏れた。
なんぞ?
で、お茶が配られる。
叔父さんの裸像制作をしたい提案から、何か別の話になっている。
「別ではない。
少し聞きなさい。
まず、男でも子供を宿したい等と欠片でも願うなよ。
ここは神聖王国なのだ。
血統継承者が願うとは、特別だ。
お前の腹から、何かが産まれる事になる。脅しではない。」
「脅しじゃん!..でも理解した。神様、いるんだもんね。こわっ」
「..そうだ。
産まれ直したフェンにとって、この世界の当たり前がわからないのは当然だ。
そして何がわからないのか、理解してない私達も許してほしい。
何も知らない赤子、スキル無しの子供と思えばよかったのだ。」
「スキルのない子供もいるの?」
「いる。才能はあれどすべてがスキルの形になるわけではない。
無くとも生きていける。」
「確かに」
「まず、お前は順応しているが、疑問に思ったことは無いだろうか。」
「何を?」
「私とフェンが同衾する理由。つねに側にてお前を置く理由だ。」
「わかるよ。叔父さんの血統継承スキルの苦痛が和らぐからでしょ」
「それもある。だが、それだけでもない。
私がいれば、不埒な輩がお前に近寄らないからだ。
少なくとも、フェンは私のものだとしていれば、他の血統継承者は手をださない。」
「何か、ちょっと、わかってきた、気が..うわぁ〜」
「言ってみろ」
「もしかして僕は男だけど、ボーナス特典ありのご褒美だったりする?」
「逃げずに言葉にしてみなさい」
「わかったよ。
つまり、僕と結びつきがあると、血統継承の恩恵に何かがおきるとか?」
叔父さんは伸びすぎた前髪をかき上げて、口をひき曲げた。
たぶん、叔父さん自身の経験もあるんだろう。
「肉体関係を結び、愛情によってつながれば、お前の加護も恩恵も共有される。
神聖王国が婚姻を重要視しているのは、それだ。
政略重視としながらも、相性を一番重要視している。
だから、無神論者の男と結婚したロザリンド姉上の状況がオカシイのだ。
政略としているのに、愛だ。
当時、その愛という虚飾に謀られたのだ。
フェンよ、お前はロザリンド姉上と同じなのだ。
とても美味い菓子なのだ。
お前自身が本当に愛する者を見つけて、幸せにならねばならんのだ。」
「で、何で叔父さんの裸像を作っちゃ駄目なの?」
「お前は私の愛人になりたいのか?」
「そーいう意味になっちゃうの?」
「なるんだよ。同衾して裸像の全身像を造る関係は、すでに親類という間柄ではないぞ。私の庇護下にある子供と、私の庇護下にある愛人では、まったく話が変わる。
そもそもお前の将来の相手が、私を目にしてお前に愛を囁くと思うか?
泣き叫ばれて、逃げられるぞ。」
「一緒に寝るのやめれば?レーヴェンに来てからは寝てないでしょ」
「ここはある程度安全だからだ。
だが、他では別だ。
私という障害物が隙を見せたと勘違いする輩と、悍ましい邪神の使徒が忍び込もうとしかねない。それは許されぬ。」
「本音は?」
「本音?
それ以外の理由か..
確かに姉上以来の安眠枕だ。
もちろん、姉上と同衾なぞしていないぞ。
姉上やレーヴェンの血統継承者の近くにいれば、まぁ一応は眠れるのだ。
それがフェンの側で意識をすべて落としても、寝ている間の狂化が静まる。」
「こわっ、寝てる時、叔父さん暴れてるとか?」
「意識がないと、狂化が起きるのだ。
動き出してしまう事があるのでな。
それで家内の者を害してはならんから、特注の鎖を巻いて寝ていたのだ。
フェンのお陰で、普通に眠れる。
お前の安全も見守れるしいいことばかりよ」
「どこから突っ込んでいいのやら。
でも、無理やり誰かのものにされても、効果はあるの?」
「それはわからない。
下世話な話になるが、別に、愛情や感情が必要ではないかもしれないのだ。
私達は例外だ。
フェンは私と同じく加護が強い。
それ以外の実例は意味をなさないのだ。
まぁそもそもだ。
お前の神が許さないだろうがな。
私もだ。
お前が嫌な目に合うことはないから安心しろ。
お前に近づく不埒者は、すべて八つ裂きにしてやる。
自分自身を含めてな」
「じゃぁいいじゃん」
叔父さんは、僕を安眠枕ぐらいに思っている。
大切なロザリンド母上の子供。
この人は純粋なのだ。
主神様のお墨付き、純粋で真っ直ぐな愛を捧げる人なんだ。
物語の主人公で、僕はその背景。
眺めているだけで、幸せになるよ。
それだ、それ。
完璧な造形、神の愛を受ける男、すごい。
やっぱり彫刻とか立体で作りたい。
裸体じゃなくてもいいか、でもダビデ像みたいなの作りたい。
英雄像なんてすごくない?
「ん?何がいいんだ」
「叔父さんの完璧な姿を像にする。
僕は気にしない。
叔父さんと僕がどう言われようと、どうでもいいんだ。
だって、知らない人が何を言おうとどうでもいい。
そういう人は、人生の糧にはならないし、助けにもならないもの。
何の問題もないじゃない?
あぁ叔父さんの恋人が勘違いしちゃう?」
「恋人はいないが」
「これからできた時、言い訳は僕からもするし」
茶菓子をサーブしながら、アズラエルが叔父さんに頭を振る。
「わかっている。
フェン、人間は不思議なものでな。いくら真実を言っても誰も信じないのだ。
もし、お前が可愛らしい伴侶を見初めたとする。
それが十三の頃から叔父と同衾し、あまつさえ全身裸像を贈る関係だ。
微笑ましい家族愛だと納得するか?」
「叔父さん、こんな話題だけ常識人だね」
「お前が恋人を連れてくる時、私は多分、三十ぐらいだろう。
逆を言えば、甥を囲っている私は誰が見ても病気の男だ」
今と変わらない評判だよね。とは言わずに、僕は微笑んだ。
「でも、叔父さん自身も、気にならないよね」
で、叔父さんは溜め息をついた。
「気にならないから、まずいんだよ」
そいで思わず鑑定しちゃったよ。
パッシブ狂気状態に変わり無しで、これである。
さすが倫理を重んじる主神の寵愛をうける人だった。
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