第7話-3 私と“わたし“の答え
私は、この真相を推理した後、改めて白石からの思いについて、自分はどう答えるべきなのかをずっと考えていた。
白石は、悪い人ではないと思っていた。恋人もいない、友達だってほとんどいない、一人の女子高校生として、こうやって気持ちを向けてもらえることは、素直に嬉しく感じる。
そんな“わたし“が、自分の中にはいるのも事実だった。
だが——、
それでも、“私“は探偵なのだ。
“あの人“に憧れ、探偵になることを決意した私にとって、「一人の女子」に戻って、恋などに夢中になることは、どうしても魅力的には思えなかった。少なくとも今は。
そう、私はまだまだ、“探偵でいたい”のだ。
……私は用意してきた答えを白石に告げる。
おそらく白石は、その答えを覚悟していたのだろう。
少しだけ寂しそうに笑った後、「わかったよ」と言ってくれた。
——白石と別れた後、一人屋上で、シガレットを食べることも忘れて、ぼんやりと校庭を眺めながら考える。
……いつか、私も“探偵“をやめて、一人の女子として恋に落ちたりするのだろうか?
やっぱり、今の私には全く想像出来なかかった。
そういえば、とふと思う。
東堂は、この話をどこまで掴んでいたんだろうか?
奴のことだ、ある程度は知っていた、もしくは推測していたのだろうが、さすがに「わかっていて、わざと泳がせる」ほど性格が悪いとは、信じたくなかった。
というか、なんで私は東堂のことを考えているのだろう?
多分、この後、間違いなく、「どうだった?」と聞かれるのに対して、うまく答えないと、絶対に揶揄われるというアラートが、私の中で働いたからに違いない。
そう、自分に言い聞かせる。
——そんなことを考えていたら、当の東堂が何事もなかったかのように、屋上にやってくるのが見えた。
そのあまりにも普段と変わりのない様子に、何となくムカついた私は、シガレットを口に咥えて、“探偵モード“に戻る。
「で、どうだったんだい? 探偵さん?」
予想通りの質問をしてくる東堂に、私はニヤリと笑ってから答える。
「心配しなくても、事件は解決したよ。
君の力を借りずにね」
「へー、珍しいこともあるもんだ。結局、真相は何だったんだ?」
「馬鹿だな。部外者に言うわけないだろう。守秘義務ってやつだ。
ただ、これだけは言える。今回も、まるで闇に巣食う蜘蛛の糸のように絡みあった、複雑な事件だったよ」
「なんだよ、もったい振りやがって。
まあ、いいや。これは僕からの差し入れだ」
そう言って、東堂が飲み物の缶を放り投げてくる。
お手玉しながら、何とかそれをキャッチした私は、パッケージを見て絶句する。
「探偵といえば、ブラックコーヒー、なんだろ?」
やっぱり、こいつは性格が悪い。
改めて、私はそれを思い知った。
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