第6話−1 耳と靴をすり減らして

 私は、3年生の生徒を中心に、成績提示の不正の噂についての聞き込みを行った。


 ポイントは3つ。

 ①誰から(どこから)その噂を聞いたか

 ②それをいつ聞いたか

 ③実際の噂の内容


 この情報を丹念に繋げていくと、噂のルートの流れが見えるという寸法だ。


 ただ、早速難航してしまう。

 噂なので、そもそも誰から聞いたかよく覚えていないケースが多いのと、所詮学生の噂話、基本うろ覚えであるため、一部の聞いたタイミングが、成績提示の前から流れていたという情報がフロックとなり、ルート自体が循環参照のようにグルグル回ってしまうのだ。


 ……私は、頭を切り替えて別の視点からアプローチすることにした。


「そもそも、現在提示されている成績表は正しいのだろうか?」


 仮に不正が行われている場合、差し替えや検証期間が設けられると思うのだが、少なくとも私の知っている範疇では、そのようなことが行われたとは聞いていなかった。



 ——それについては、職員室に聞きにいくと、思った以上にあっさりと答えがわかる。


「バカ言え。不正なんぞ行われている訳があるか」

 『中間で不正があったのか』ストレートに質問した私の頭を、担任が軽く叩いた。


「いたっ。でも、そんな噂があるんですよ!」

 私はめげずに担任に食いつつ。探偵として諦めない自分の姿に少し酔っていたのも正直ある。


「まあ、その噂は俺も聞いたけど、それは絶対にないぞ。

 お前も知っての通り、この学校の成績は、“成果ポイント“にも直結するからな。情報管理、採点方法、成績管理おおよそ全ての工程が、厳密に管理、実施される運用になっている。

 仮に教師である俺がやろうと思っても、不正の方法なんて思いつかないくらいだ。

 そもそも、一体お前は“どうやって不正が行われた“という噂を聞いたんだ?」


 そこは痛いところだった。

 担任の言うとおり、実は、色々あった噂の中でも具体的な「不正手段」についての言及はほとんどなかったのだ。


 黙り込む私に対して、担任が続ける。

 「ほら、結局、噂は噂だってことだ。

 だいたい、お前は成績はいいのに、なんだって『探偵部』なんて変な部活をやっているんだ?

 うちには制服がないから、ダメとは言わないが、その服装だって、全然似合ってないぞ。そもそも……」


 話が変な方向に行きそうだったので、私は曖昧な笑いを浮かべつつ、退散することにする。

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