第36話 大宴会をしよう!



 結論から言うと、十日間閉じ込められっぱなしだった。

 で、出てきたら出てきたで。

 十日間お預けを食らってたエトナとアイシャとシルドラに搾り取られた。


「死ぬかと思ったぞ」


「ごめん、兄ちゃん。兄ちゃんなら何とかなるかなと思って。エロいし」


 エロいけどな。

 エトナもアイシャも手加減なしだった。俺はすでに手加減なしの十日間を過ごしてきたというのに。


 普通の男性だったら、トラウマで反応しなくなるんじゃないかな。


「『ヒール』はヤバいな。無限にできちまう。代わりに寿命が減ってる気がするが」


「よめは死なない。あたしのたいえき飲んでるから」


 ドラゴン、特に古竜種の体液は秘薬の材料らしい。

 血とか涙とかは不老の秘薬や蘇りの霊薬の材料なんかにもなるんだとか。

 飲んだのは全く別の体液ばっかりだけど。


 やけに元気が尽きないのはそのせいか。


 そう思って一息ついてると、シャロン団長たちがエトナの家に来た。


「やぁ、この間はありがとう。素晴らしい夜だった」


「夢みたいでした」


 団長と副団長もツヤッツヤしてる。あれから結構日数が経ったはずなんだが。


「何の用だ? また呼び出しか?」


「いや、今日は辺境伯閣下の使いで来た。騎士団生還の凱旋式典をしたいので、物資を頼みたいらしい」


 ああ、凱旋式か。そりゃ必要だ。

 『魔力暴走』の原因も特定できて、再発も起こらない。


 事態は解決してもう心配はない、と市民に広く知らせたいんだな。

 式典ってのはそういう役割だ。


「わかった。じゃあ、やろうか」


「なにを?」


 シルドラが尋ねてくる。

 決まってるだろ。


「お祭りだよ。――宴会だ!」



********



 式典は二日で準備が終わった。

 俺の出した物資が行き渡って、辺境領のこの街は完全なお祭り騒ぎになった。


「ギョウザの大食い大会、優勝者は冒険者ソフィ――ッ!!」


 大歓声が上がる。

 餃子を四百八十個食べきって二位のパルムと倍の差をつけた優勝者は、満悦の笑みを浮かべていた。


 広場では他にも大食い大会や、フリーマーケットが開かれている。

 高級ハムの大食い大会では、アイシャが優勝を勝ち取っていた。


 ハムってみっちり目が詰まってるから、意外と個数は食べきれないんだよな。

 実は持つとめっちゃ重いんだ、あれ。


「兄ちゃん、あっちの串焼きも食おうぜ!」


「よめ、もっと食べる!」


 エトナとシルドラ、ピリカに連れ回されて街中を回る。

 今日は街の誰もが大いに食べて、飲んでいた。


 酒は溢れかえるほどに出したので、冒険者ギルドの酒場では飲み比べ大会も行われている。

 エールの代わりにビール、ワイン、蒸留酒、なんでも有りだ。


 市民のみんなが作った料理も多い。

 冒険者が狩ってきた魔獣肉をギルドが無料で振る舞ったので、それを材料に俺の出した調味料や香辛料で様々な料理を作っている。


 今買ったこの串焼きにも塩コショウがふんだんに使われていた。

 カレー粉も気に入られたみたいで、カレー味のいろんな肉を焼いた串焼き店も乱立している。


 煮込み料理に関しては圧力鍋をしこたま出したので、手間のかかる煮込み料理が短時間で作り放題だ。


 魔獣肉の柔らかい煮込みが百均の使い捨て紙皿に入れられて、そこら中の人たちがそれを食べながら歩いている。


 もちろん、ゴミはゴミ箱に。

 たき付けとして使える資源なので、回収ボックスもそこら中にある。

 大半が段ボール箱の再利用だが。


 シルドラとピリカが仲良く串焼きを分けっこしているのを見ていると、ふと警備の騎士団が目に入る。


「よう、シャロン団長。祭りの日なのに、庶民街まで大変だな」


「なに、こんなときだからこそ警備は厳しくしなくてはな。みんな酒も入っていることだし。――そうそう、運営本部が、追加の食料が欲しいと言っていたぞ」


 もう足りなくなったのか。

 そりゃそうだな。

 みんな、すごい勢いで飲み食いしてるもんな。


「じゃあ貴族街にも足を運ぶか。……ほら、みんな行くぞ。エトナ、しっかり二人の手を引いてやってくれよ」


「おう、兄ちゃん!」


 警備の続きに戻るシャロン団長と別れて、貴族街へ向かう。


 貴族街区の街門は、辺境伯様のくれた首飾りで素通りだ。

 でなくても、街中の食糧をまかなってる俺の姿はもう知れ渡ってる。


 辺境伯の庇護下にあることも、ドラゴンの子どものシルドラが一緒にいることも知れているので、悪さを考えてくる奴はいないが。


 貴族街区を歩いていると、催し物をしている広場を横切ることになった。

 あれは大道芸かな。

 ひらひらした衣装の舞踊もやってるけど、この世界、踊り子は男性なんだな。


 その奥に突き進んでいくと、辺境伯の城がある。

 邸宅を兼ねるこの城は、辺境領の中枢だ。

 この中ですべての政治が行われる。


 その敷地、中庭に運営本部が作られていた。

 広大な中に入ると、相談者が陳情しにくいからだ。


 俺の出した折りたたみテーブルや設営テントの裏に山積みの物資が置かれている。

 はずだったけど、今はもうほとんどない。


 そこのテントで受付をして材料や物資を配布しているはずなんだけど、もう尽きかけているみたいだ。


「よぅ、辺境伯閣下。食糧と物資の補給をしに来た」


「良いところに来てくれたね。早速頼むよ。元の量と同じくらいまで出しておいてくれ。余った分は備蓄する」


 了解、と答えて俺は次々と物資を購入して出していく。

 山積みにしていくのは、近衛とかお付きの従者の人たちに任せた。


 城の良いところは、人手に困らないところだ。

 大きいから、働く人数も多い。


 よだれを垂らしそうな目で見つめてる人がいたので、ついでに甘いものも購入して渡していく。

 別に限られてないしな。食べたきゃ食べれば良い。


「……街のみんなは、笑っていたか?」


「ああ、大騒ぎだったよ」


 辺境伯の質問に、俺は作業をしながら答える。

 本当は手を止めて答えないと不敬なんだろうけど、量が量だからな。


「もしみんなが笑っていたとするなら、それはきみの力だ、天の御使い、カイト」


 俺は、辺境伯を振り返った。

 美人の辺境伯閣下は、俺を見つめていた。


「褒美を取らせたい。何が良い? ……きみに渡せるものなど、ろくにないけど」


「そうだな。店をやりたい。この街に食糧が行き渡って作物が取れて、俺が食糧を出さなくても良くなったら。――庶民街で小さな店をやるよ。珍しいものを、そこそこの値段で、庶民がたまの、ちょっとした贅沢に買いに来るような店」


 俺がそう言うと、辺境伯は小さく笑った。


「良い夢だ」


「だろ? 閣下も来いよ。安くしとくぜ」


 なにせ、資金源はそこら中のガラクタだからな。

 ぼろ儲けしようと思えばいくらでもできるけど、それじゃ街の経済が回らない。


 だから、街にちょっとだけお邪魔して、追加のちょっとしたものを少しだけ売っていく。

 食べる手段はもうあるんだ。


 後は、俺の趣味だ。


「良いだろう、叶えよう。お前に土地と店舗を用意しよう。……ただ、商品の値段はそこそこで頼むぞ」


「本当か。ありがとうよ、そりゃ嬉しいな」


 それが叶ったら、後はゆっくり過ごせるだろう。

 気の合う仲の良い奴らと一緒に、食べて、飲んで、エロいことでもして。



 まぁ、そうやって過ごす毎日も、悪くないだろう。


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