第29話 騎士団を見送ろう!



 街が復興し始めたということで、重要なことがある。

 原因である『魔力暴走』の詳細についてだ。


 これを解明しなけりゃ、この辺境領は完全に復活したとは言えない。

 また同じことが起こらないとも限らないからだ。


 なので、騎士団が遠征することになった。

 俺はその補佐で、騎士団兵舎に待機する。


 食糧の配布拠点が貴族街に変わるということで、庶民街の人の貴族街立ち入りを許可してもらった。

 主に、貴族街からの注文も受ける工房の関係者が受け取りに来てくれるようだ。


「これで食糧の配布は大丈夫だな。それで、輜重部隊への受け渡しはどうするんだ?」


「常に物資を出し続けてくれ。探索用の本営を設置して、そこを拠点に毎日輜重部隊から供給し続けてもらう」


 なるほど。延々と往復させて、常に拠点に食糧がある状態になるのか。

 食糧を持ち帰る必要がないから、帰る際には置きっぱなしにして、後続の輜重部隊から受け取り続ければ良い。


 兵糧が無限にあるからできる、豪華な兵站運用だな。


「陣頭指揮はシャロン団長か。じゃあ、シャロン団長。気をつけてな」


「ああ、行ってくる。この任務が終わったら無事だった騎士に子種をくれよ。休ませないからな」


 死亡フラグみたいに言うな。

 無事に帰ってこいよ。


 そして編成し終わった騎士団の探索部隊が、従者込みで二千人ほど出陣した。



********



「結構大規模な遠征なんだな」


「それはもう。この地に起きた中で未曾有の災害ですから。何があっても原因を究明しないと行けません」


 残った騎士団の人たちが教えてくれる。

 治安維持と俺たちの護衛に合わせて千人の騎士や従士が残っているんだが、そのうち三百人ほどは順次、輜重部隊として出発していく予定だ。


 だよな。街の憲兵機能を停止させるわけには行かないもんな。

 この街の衛兵は従士階級が務めているらしいので、全員が出払うと街からおまわりさんがいなくなる。


 そうなると、犯罪のし放題だ。

 それで街が荒れたら元も子もない。


 そのくらいの街のリスクを受け入れて人数を割かなきゃ行けないくらい、本気の出陣というわけだ。


「運搬日数が伸びていくから、日持ちする食品の方が良いよな?」


「そうですね。あと、荷馬車を牽けるだけの重量でお願いします。小麦粉よりは乾麺やナッツ・チョコなどの乾物が良いですね。缶詰は重いので、レトルト食品の方が良いかもしれません」


 缶詰だと、缶の重さがムダな重量になるからな。

 ほぼ無限に物資が出せても、荷馬車の積載重量は有限だ。


 この世界は馬も魔獣種だから多少の余裕はあるが、それでも限界はある。

 なるべく運搬効率の良い、日持ちする食品を出していかなきゃな。


「あんたが街と兵舎の陣頭指揮を執るんだろう? 必要な物資は指示してくれると助かる。なにせこっちは、行軍中の状況がわからん。知らないからな」


「了解しました。日数が立つほど到着までの運搬距離が伸びるので、保存食の比率が高くなっていきます。……私の名はミアルです。副団長を務めていますので、よろしくお願いします。御使い殿」


 ミアル副団長、ね。

 シャロン団長よりは少し年下くらいか。

 鎧に隠れてるけど、立派なものをお持ちで。胸部形状が膨らんでるから、平面だと収納しきれない特注品なんだろう。


 てことはこの人も非モテなのな。切ない世界だ。


「今、私の胸を見てなにか考えませんでした?」


 鋭い。


「立派そうだな、と思っただけだ。魅力的だよ」


「みりょ……っ! で、では、今回の作戦が終わった後、お待ちしています……」


 顔を逸らしてもじつくミアル副団長。

 これは、あのとき一緒に風呂で覗いてたタイプだな。


 その反応にエトナやアイシャたちが不満そうに文句を垂れている。

 はいはい。お前らも可愛いよ。


「道中はどうなってる?」


「街道から森と石切場の両方へ伸びます。山は森の先にあって、道が切り開かれていません。理由は魔獣が多いために林道工事ができないからです」


 森や山は魔獣の棲息区域って言ってたもんな。

 この最果ての地より先に、多少は街道が作れただけでもマシなのか。


「山は城の向こうに見えてる奴か。結構な高さだな」


「ですね。鍛えているので、通常なら三日から四日ほどで中腹までは行けます。ですが、魔獣が多ければ戦闘が増えるので、どこまで伸びるかはわかりません」


 探索日数は実質未定、と。

 二十日ほどって言ってたのは目安か。

 あるいは、そこを超えると騎士団の体力が疲弊しすぎるのかも知れない。


 帰ってこれない行軍なんて、ただの特攻だからな。

 帰れる体力的余裕を持った日程じゃないと無理だ。


 それをカバーするための人海戦術だな。


「帰ってこれる勝算は?」


「五分五分です」


 厳しいな。

 俺は『無事に』とは聞いてない。

 ミアル副団長もそれを織り込み済みのはずだ。


 それでなお、半々。


「そんなに危険か、この遠征」


「はい。魔力暴走が魔獣由来のものだとしたら、その魔獣が生き残っていたら、騎士団はまず勝てません。相手は街を半壊させる魔力の持ち主です」


 そうだな。

 街を半壊なんて、戦術兵器クラスの破壊力だ。


 それがもし、争いとかで放たれた後に相討ちになった、とかじゃなかったら。

 その魔獣がもしも存在して、生き残っていたら。


 人類じゃ勝てないだろうな。


「シャロン団長の実力ならそれでも生き残れるでしょう。ですが、騎士団は壊滅します。それでも探索する理由は一つ」


「そんな魔獣が生き残ってたら、どのみちこの街自体が全滅させられるから、だな」


 シャロン団長がいくら強くても、そんな実力者なんて数は知れてる。

 しかも、この街全体で言えばなおさらだ。


 街を滅ぼせる魔獣が存在していたら、街が滅ぶ。

 そりゃ当たり前の話だ。


 だから、生きようが死のうが命を懸けなきゃならない。

 かなりギリギリの、最後の選択を強いられてたんだな。


「場合によっちゃ、俺の命もあと数日か」


「そうですね。そのときは、ご一緒させていただきます」


 ミアル副団長がそう言う。

 覚悟してんだな。


 俺にはその覚悟を物資で支えるくらいしかできない。

 戦闘用のチートは持ってない。戦闘力的には俺は役立たずだ。


 災害復興はできるが、怪獣退治は俺には無理だ。


「生きて帰ることを願ってるよ」


「そのときは、騎士団の何人が種付けしてもらえるでしょうね」


 命あっての物種だ。

 生きてたら、できる限りは要求に応えよう。


 生きてくんだ。

 明日も明後日もその先も、美味いメシを食ってエロいことをして、ぐっすり寝て起きて。

 笑って、泣いて。喜んで。



 そうならなきゃ、嘘だろう。


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