第13話 貴族に料理を食べさせよう!
「みんな! 騎士団員のお姉さん方が、高級肉をおごってくれるぞ! 貴族も認めた味だ! 騎士団に感謝して食いまくってくれ!」
わざとそう叫ぶと、農家の皆さんが騎士団バンザイ! と叫んでいた。
持ち帰り用に出した三十キロ以外に、団員の皆さんが土を掘り出してくれたんで、農民のみんなにも配ることができた。
カセットコンロは高いと言うと、騎士団員は手慣れた様子で、いくつもたき火と置き台を組み上げてくれた。
野営訓練で慣れているそうだ。
あとはフライパンだけ大量に出せば、そこら中で勝手にみんなが塩コショウかけて焼き始めている。
とろける和牛の美味さにみんなは大歓喜していたけど、じっちゃんばっちゃんには脂がきつかったようだ。
若い女性や、子どもたちがモリモリ食っている。
わかるよ。高い肉って、胃が弱ると、ちょっと食ったら満足するもんな。
「すまない、何から何までお世話になってしまった。本来は、我々が備蓄食糧を配給しなければならない立場なのに……」
「気にすんなよ、団長さん。食糧が足りなかったんだろ? あんたらまで餓えてるところ見りゃ、無理だったってことは充分わかるさ」
俺がそう言うと、女騎士団長は、照れくさそうに頬をかいた。
備蓄食糧たって、街中がこんなんじゃ足りるわけがない。
こんなチートでもなけりゃ、誰だって餓えるだろうさ。
「貴殿は、天からの御使いかなにかか? ……いや、実際にそうではなくとも、辺境伯閣下には、そう報告させてもらう。これだけのことをしてくれているのに、貴族の私欲に振り回されては、領民みんなが困るからな」
「ありがたい話だ。そうしてくれると助かるよ。面倒ごとはごめんだ」
私欲で囚われるなんて、まっぴらごめんだ。
独占する必要がないほど大量に物資を出せるんだけど、そう考えずに独占するアホ貴族も多くいるだろうからな。
辺境伯閣下とやらが認めてくれるなら嬉しいけど。
騎士団の団長様の理解が得られただけでも、現状はラッキーか。
「他の区域に持って行った物資には手を出してないだろうな? 持って行くのは構わないんだが、その分、その区域に補充しなけりゃならん」
「本当にすまない。実は、大通り近辺の食糧は、接収させてもらった。補充物資を出してくれるなら、団員に運ばせるが」
そうしよう。確認しといて良かった。
東の大通りじゃ、何を出したっけな。
良いか、適当に料理やパンや飲み物を山盛り出せば、届けてくれるだろ。
「それで、戻ってきた団員が、見たこともない美味な料理を出している、と言っていたんだが……さっきの肉やパン以外にも、美味な料理を出せるのか?」
「出せるよ。庶民料理だから、貴族様の口には合わないと思って出さなかっただけだ。気にせず食べられるんなら、好きに食べてくれ」
そう言って、フードコートの料理をいくつか出す。
騎士団も全員が貴族ではないが、報告に戻ってきた幹部はさすがに貴族階級らしい。
その階級の人が美味いって言うんなら、たぶん大丈夫だろう。
最初に言ったように、モール内にはフードコートだけじゃなくて、飲食店もある。
だから、ジャンクフード以外の料理も注文できるわけだ。
「米や生魚が大丈夫なら、他にも料理はあるぞ。定食で良いか?」
というわけで、飲食店の料理を出そう。
トリ定食屋の『トリ善』のチキン南蛮定食、唐揚げ定食を十人前ずつ注文する。
天ぷら屋の『まるお』、鉄板料理屋の『堺屋ホルモン』、中華料理の『万治楼』からも十人前ずつ適当に注文。
飲食店の料理は、残った容器の扱いが面倒なんだよな。
かさばるし。
いざとなったら、この世界の水でも満たして返却すると、一緒に『買取り』してくれるけど。
容器扱いで、たぶん値段はついてないと思う。
仕組み上、そうなるだろう。
「見たことがない料理ばかりだ……これはいったい……」
「割と量を頼んじまったけど、適当につまんで、味見してくれ。気に入ったものがあれば、またいくらでも注文できる」
箸が使えるとも思えないので、プラフォークとプラスプーンも一緒に配る。
団長以下、騎士団員たちが手分けして味見していた。
「団長! どの料理も、とんでもなく美味しいです!」
「わかってる、わたしも食べている!」
みんなでもしゃもしゃ食べている。
日本の庶民料理だけど、一応本職の料理人が精魂込めてる品ばかりだからな。
貴族階級の口にも合うのなら良かった。
「ありがとう。どれも美味だった。この辺境で、こんなに複雑で美味な料理が食べられるとは、思ってもみなかった」
確かに、味付けが塩とかバターだけとか、限られた調味料だけだと、味のレパートリーは限られてくるか。
その限られた味付けが、『土地の味付け』ってもんなんだろうとは思うけど。
言っちゃえば『違う地域』の色々な味を、楽しんでもらえるんなら出した甲斐があるね。
「……この件も報告しなければならんのだが。辺境領はおろか、王都に伝わらないように、辺境伯様に口止めをお願いしなければならん。でなければ、貴殿がさらわれてしまう」
「マジかよ。庶民がやったら犯罪じゃないのか。何でもやるな、貴族」
本当に特権階級ってのは面倒だな。
でも、辺境伯様が守ってくれる公算は高そうだ。
俺、この辺境領から外に出ないことにする。
「とりあえず、この海鮮のテンプラ盛り合わせ定食をもう一食。川エビは好物なんだが、海にはこんなに大きなエビがいるんだな。白い穀物もなかなか美味い」
米も大丈夫みたいだ。
車エビで大きいって言うなら、伊勢エビでも買ってやろうか?
一応、ロブスターとかも売ってるんだけどな。
プリプリしたエビ肉にがぶっとかぶりつくの、美味いよな。
そのまま騎士団員の注文を順に聞いていく。
さっき肉をたらふく食べたばかりなんだけど、さすが兵隊さん。
胃腸も鍛えられてるんだろう、めっちゃ食うよ。
「報告するのは良いんだけどよ。辺境伯様とかに、直に会うのは無理だぞ。貴族用の礼儀作法を知らない」
「それはそうだろうな。……まぁ、謁見することがあっても、だいたい下を向いて片ひざをついて、呼ばれたら顔を上げる。くらいで良かろう。市井に宮廷儀礼など、貴族側も期待してはいない。気にしなくて良い」
そりゃ楽だな。
宮廷儀礼に関することは、本職の貴族様が進めてくれて、ただの一時ゲストな庶民は、特定の動作だけで済むのか。
そりゃそうだ。
褒めるために呼んだ場で、礼儀知らずで処罰してたら、貴族てな何を考えてる生き物なんだってなるからな。
頭の出来を疑われる。
「ははは。確かに、そういう頭の足りない貴族もいるにはいるが。だいたいは、年若い貴族子女だな。年季の入った貴族は、ちゃんと考えるだけの教養があるよ」
「そうなのか。やっぱり知識階級なんだな」
良かった良かった。
アホな考えをする頭脳労働者はいなかった。
いや、少しはいるのかもしれんが。
「貴族街でも食糧を配布して欲しいが、あの区域で人目に付くのも良くない。そこで、貴殿を騎士団の詰め所に招待したいのだが。どうかな?」
「ああ、良いよ。腹減ってる奴がいるなら、どこにでも行こう。ただ、他の区域にもちゃんと食糧は配ってくれよ?」
それはもちろん、と騎士団長は請け負ってくれた。
騎士団の詰め所か。女ばかりなんだろうな。
くっころさんの集会所ってわけか。
またエトナが拗ねなきゃ良いけど。
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