第7話 ギルド査定の罠

 ギルドに戻った俺たちを、予想外の反応が待っていた。


「Fランクのくせに、Aランクダンジョンに?」


「しかも希少職持ちを15人も救出?」


「嘘だろ……」


 冒険者たちのざわめきが、次第に大きくなる。


 受付嬢が困惑した表情で書類を確認している。


「確かに、ギルドマスターの臨時許可証がありますが……これは前代未聞です」


 そこに、あの男が現れた。


「おいおい、何の冗談だ?」


 ガルガが、仲間を引き連れて近づいてくる。


「Fランクの落ちこぼれが、英雄気取りか?」


 彼の周りの黒い糸が、嫉妬と侮蔑で渦巻いている。


 だが、その奥に——


【ガルガ:理解度15%】

【隠された真実:ギルド査定官との癒着】


 新しい情報が見えた。


「そういえば」


 俺は何気ない口調で言った。


「来週、俺たちの正式なランク査定があるんだよな」


 ガルガの表情が、一瞬固まった。


「ああ、そうだな。まあ、Fランクの査定なんて形だけだが」


「査定官は誰なんだろう」


 俺が続けると、ガルガの黒い糸が激しく震えた。


「さあな。俺が知るわけないだろ」


 嘘だ。


 彼は査定官を知っている。いや、もっと言えば——


「ハル」


 ユーリが小声で呼ぶ。


「ギルドマスターが」


 見ると、グレイソンが手招きしていた。


 ◆


 ギルドマスターの部屋で、俺たちは詳細を報告した。


 希少職集めの犯人、精神拘束の罠、そして——


「理解度システム?」


 グレイソンが眉をひそめる。


「君にそんな能力が」


「今朝、突然」


 俺は正直に話した。


「仲間の理解度が数値化されて、スキルも使えるように」


「千年前の共感者の記録にも、そんな能力はなかった」


 グレイソンが考え込む。


「もしかすると、君は……」


 言いかけて、首を振る。


「いや、今は置いておこう。それより——」


 グレイソンの表情が厳しくなる。


「来週の査定、気をつけろ」


「やはり、何か?」


「最近、不自然な査定結果が多い。有望な新人が次々とFランク止まり。逆に、特定のパーティだけが異常に早く昇格している」


 ガルガの顔が浮かんだ。


「調査したいが、証拠がない」


 グレイソンがため息をつく。


「査定は公正であるべきだが、一部の査定官が——」


「賄賂を受け取っている」


 ユーリが断言する。


「私の情報網でも、そんな噂が」


「だが、証拠がなければ動けない」


 グレイソンが拳を握る。


「ギルドの腐敗を、このまま見過ごすわけには」


「なら」


 俺は提案した。


「俺たちを餌に使えばいい」


「何?」


「どうせ、俺たちは目立ちすぎた。きっと、潰しにかかってくる」


 俺は仲間たちを見回す。


「その時、証拠を掴めばいい」


 リーナが不敵に笑う。


「面白そうね」


 アレクシスも頷く。


「ギルドの不正を暴く、か。悪くない」


 セレスは弟を救ってもらった恩もあってか、同意を示す。


「正義のためなら、協力します」


 ユーリは無言だが、その瞳には興味の光があった。


「しかし、危険だぞ」


 グレイソンが警告する。


「相手は、ギルド内部の人間だ。何をしてくるか」


「大丈夫です」


 俺は理解度表示を見る。


【グレイソン:理解度25%】

【本質:正義感あふれる改革者】


「あなたが、俺たちを守ってくれる」


 グレイソンが苦笑する。


「見抜かれているな。分かった、やってみよう」


 ◆


 査定まで一週間。


 俺たちは、普通に依頼をこなしながら、情報を集めた。


「分かったぞ」


 アレクシスが資料を広げる。


「過去三ヶ月の査定結果。明らかにおかしい」


 データを見ると、確かに不自然だった。


 特定の査定官——バルドという男の時だけ、合格率が極端に偏っている。


「バルド査定官」


 セレスが顔をしかめる。


「聞いたことがある。金に汚いと」


「そして」


 ユーリが付け加える。


「来週の我々の査定官も、バルドです」


 予想通りだった。


「向こうから仕掛けてきたな」


 俺は立ち上がる。


「なら、受けて立とう」


 だが、相手も単純ではなかった。


 翌日から、嫌がらせが始まった。


 依頼ボードから、俺たちが受けられる依頼が消える。


 宿屋が、突然満室になる。


 道具屋が、俺たちへの販売を拒否する。


「徹底してるな」


 野宿を余儀なくされながら、アレクシスが苦笑する。


「ここまでやるか」


「でも、おかげで確信が持てた」


 俺は夜空を見上げる。


「相手は、かなり焦っている」


 そして、査定三日前。


 決定的な出来事が起きた。


「リーナ!」


 訓練場で、リーナが倒れていた。


 毒だ。


 訓練用の水に、麻痺毒が混入されていた。


「卑怯な……」


 セレスが怒りに震える。


 だが、リーナは笑っていた。


「大丈夫。これくらい」


 そして、小声で囁く。


「見てた。水に毒を入れた奴」


 ◆


 査定前日の夜。


 俺たちは、ある場所にいた。


 ギルド裏の倉庫。普段は使われていない場所だ。


「本当に来るかな」


 アレクシスが囁く。


「来る」


 ユーリが断言する。


「リーナが見た男を尾行した。今夜、ここで」


 果たして——


「遅いじゃないか」


 ガルガの声が聞こえてきた。


「すまない。警戒されていて」


 もう一つの声。これは——査定官バルドだ。


「で、例のFランクどもは?」


「リーナってやつに毒を盛った。明日の査定じゃ、まともに動けないだろう」


「よくやった。これで」


 バルドが金袋を取り出す。


「いつもの報酬だ。明日、やつらは不合格。そして、お前たちはBランクに昇格」


「さすが、話が早い」


 ガルガが金を受け取る。


 その瞬間——


「十分だな」


 俺たちが姿を現した。


 同時に、天井からユーリが降りてくる。手には記録用の魔道具。


「すべて記録した」


「てめえら!」


 ガルガが剣を抜く。


 だが——


「無駄だ」


 グレイソンが、ギルド警備兵を引き連れて現れた。


「すべて聞かせてもらった」


「ギルドマスター……」


 バルドが青ざめる。


「バルド、お前を査定官から解任する。そして——」


 グレイソンの目が鋭くなる。


「ギルド規約違反で、追放だ」


 ◆


 査定当日。


 新しい査定官の下、公正な審査が行われた。


 結果——


「パーティ『ブレイクライン』、Cランク認定!」


 歓声が上がる。


 FランクからCランクへの三階級特進。前代未聞の出来事だった。


「さらに」


 査定官が続ける。


「ギルド内の不正を暴いた功績により、特別報奨金を授与する」


 金貨100枚。


 大金だった。


「やったな」


 リーナが飛び跳ねる。


「これで、まともな装備が買える!」


「宿にも泊まれる」


 アレクシスが安堵の息をつく。


「何より」


 セレスが微笑む。


「正義が勝った」


 ユーリは相変わらず無表情だが、その瞳には満足げな光があった。


 そして、俺は——


【組織理解度:3%→8%】

【ギルドの腐敗構造を一部解明】


 理解度が上昇した。


 これで、また一歩、真実に近づいた。


「さあ」


 俺は仲間たちに呼びかける。


「Cランクになったことだし、もっと大きな依頼を受けよう」


「おう!」


 リーナが剣を掲げる。


「ブレイクライン、限界突破の第一歩だ!」


 だが、俺は知っていた。


 ギルドの不正は、まだ一部に過ぎない。


 もっと大きな闇が、この世界には潜んでいる。


 それでも、今は前を向こう。


 仲間と共に、一歩ずつ。


 いつか、すべての真実に辿り着くその日まで。


 ギルドを出ると、快晴の空が広がっていた。


 新しい冒険の始まりを祝福するかのように。

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