【BL】半分 - After & Side Story -
一色あかり
After Story 1_村瀬:翌朝
目を覚ますと、葉山に耳をかじられていた。
「葉山、おはよう……、なに、」
村瀬が声をかけても、葉山は顔を離さない。耳殻に歯が当たり、かたちをなぞるように舐められる。次いで耳の裏側にも舌先を差し入れ、更に唇でたどられる心地がした。村瀬は仰向けのまま自身の身体の気だるさを確かめてひとつ欠伸をし、葉山の息づかいに応えもせずに、しばらくそのざわざわとした音と感触にとらわれていた。
カーテンの隙間から漏れる光が目にうるさい。
枕元のスマートフォンをつかんで画面に目をやると、朝日が落ち着いた頃合いだった。明け方まで葉山と触れ合っていたから、大して眠れていない。
葉山はまだ、執拗に村瀬の耳殻を追っている。
「葉山、ちょっと、離れて。もう少し寝たいんだけど、」
葉山を抱え込んで離させると、少しもまどろみのない硝子のような瞳が村瀬を捉える。薄い手のひらが村瀬の胸に触れ、その細い指先の感触が素肌に心地良い。葉山の華奢な身体は肩まで掛け布団で覆われ、村瀬はその下に隠された素肌のなめらかさを思う。いくぶんかまどろみが冴えてゆく。
村瀬が葉山の頬に唇を押し当てると、葉山は顔を傾けて村瀬の唇を捉えた。思いのほか熱い息づかいで押し当てられ、濡れた音がたつ。幾度か唇どうしを触れ合わせて顔を離すと、葉山はねだるような顔つきをして村瀬の瞳を見つめた。
「村瀬さん、えっちしたい、」
「は? ……お前、つい数時間前まで何をしていたか覚えているの、」
「えっち、」
「……、」
お願い、と言って、葉山は身体のすべてを村瀬に押しあてながら抱きつく。葉山の下腹部が熱を持って反応している。
「お願い、……おさまらなくて、たまらない、」
「お前、底なしなの? ……わかったけど、もう少し休ませて。喉が渇いたし、お前があまりにも使うからティッシュが無くなった、新しいのを、」
「いやだ、今すぐが良い、」
葉山は子どものように村瀬の上に覆いかぶさり、体重を預けてしがみつく。茶色がかった細い髪が間近で揺れた。村瀬は思わずその小さな頭を指でなぞる。遅れて、その指の動きが葉山の欲求をより煽ったことに気づいて、考えなしの自身のふるまいを大いに悔やんだ。
「ティッシュなんていらない。村瀬さんが食べてくれれば良いじゃないか、喉が渇いたんでしょう、」
「ばか言うな、品の無い。そんなもの口に含めるか、」
「ひどい。俺のこと食べちゃいたいって言ったくせに、」
「食べたくない部位だってあるんだよ、」
葉山は駄々をこねるように、ひどい、俺の食べるの嫌なの、と繰り返して涙ぐみながら睨む。そのふるまいが計算づくなのか素なのかは分からないが、どちらでも良い。薄く白さのきわだつ肩も、すがるように触れてくる細い指先も、うるんだ大きな瞳も薄い唇も、なにもかもが、やはり“食べてしまいたい”ほどに愛おしく、結局は彼の求めることをすべて叶えるしかなくなる。すべてこの子の言いなりだ。
「わかったから、じゃあ、一緒にシャワーを浴びよう。ぜんぶ、洗ってやるから。どこでも触るし、必ず心地良くするから、」
苦肉の策で自身の身体に最も負担のなさそうな方法を提案し、葉山が納得したようなので村瀬は安堵する。
葉山の手を引いて浴室へ向かいながら、ふと、村瀬はこの一時しのぎの提案が最良ではなかったように思えてきて、立ち止まる。
またひとつ、この子を甘やかす新たな方法を教えてしまった。
「村瀬さん、どうしたの、」
「お前、何歳だっけ、」
「え?……十九歳、」
「うん、」
ずいぶんと旺盛なこの小さな子の年齢をいまいちど確かめて、目覚めたばかりの欲求に応じるための作戦を思い巡らせながら、村瀬はふたたび足を進めた。
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