断罪の使徒テミスちゃん【校則違反は許さない】

烏丸ウィリアム

第1話 スカートの長さ

 ある中学校に、厨二病の少女がいた。校則を全文暗記し、校則を心の支えとし、校則を守らない奴を消し去る風紀委員。人呼んで、断罪の使徒テミス! ……本当はひよりというめちゃくちゃ可愛らしい名前で、本名が嫌いなようである。

 そんなわけで今日も違反者を断罪しようと目を光らせている。テミスは今日もきっちり上までボタンを留め、堅苦しい姿と顔で待ち構えている!


「おはよう、テミスちゃん」


 こんな変人にまともに相手してくれる数少ない人は三人だけいる。その一人がこの彩夏あやか。明るくていつも元気な女の子だ。


「おはよう」

「今日も違反者探し?」

「……そう。もう既に一人見つけた」

「え?」


 テミスはビシッと彩夏の足元に指さし、叫んだ。


「スカートの長さが! 二センチ! 足りない!」

「ええ! なんで分かるの! しかも正確な長さまで!」


 彩夏が気持ち悪く思うのも無理はない。多くの人は一センチがどのくらいかをよく覚えていないはず。それに空中で長さを見て測るなど人間業ではない。いろんな意味で変態だ。

 テミスが定規を取り出して測ると、確かに二センチだった。気持ち悪い。


「もっと長くしろ! 断罪の対象!」


 変な厨二病ポーズで威嚇しても全く怖くない。その威嚇に応えるように、彩夏は腰に手を当てて言い返す。


「スカートが短いと何の問題があるの?」

「うぐっ……!」


 説明しよう! テミスの最大の弱点は、校則の根拠を説明できないところにある! さあどうするテミス! ここで説得できてこそ断罪の使徒、風紀委員だ!


「……脚見られるだろ」

「別にいいでしょ脚くらい」

「男の欲を舐めるな! いやらしい目でいつも見てるに違いない!」


 テミスこそ、彩夏の脚をジロジロ見てたから校則違反に気付けたわけだ。なかなか説得力がある。


「えー、なんで見せる女の子の方が悪いことになってるの?」

「ぐがあっ!」


 さらに立場が悪くなってきたぞ、テミス。ここからどう反撃するか。 テミスは悩みに悩んだ末、一つの結論に行き着いた。


「……確かに、見る男の方が悪いな。代表者連れてくる」


 テミスに男友達なんているのか?


 ☆


「今日も断罪か」

「スカートの話と聞いて」


 連行されたのはまこと礼斗れいと。誠はちょっと無気力そうな顔の男、礼斗はチャラくてパリピな人だ。


「お前ら、女子の脚を見るな」

「「急にどうしたんだよ」」


 至極真っ当な指摘だが、テミスは事情を説明し、結論を述べる。


「スカートの長さは関係ない。脚を見る男がいなければいいんだ」

「なんだその無理難題は!」


 礼斗は負けじと戦いを挑む。勝手に犯人ということにされては困るのだ。


「見えてるものを見るなだなんて、息を止めろって言ってるのと同じだぞ!」

「そうだ。息止めろ!」

「そんな無茶なことできるかよ! なあ、誠?」


 礼斗は誠に同意を求める。誠はうなずき、テミスを鋭い目で見つめて言う。


「……バレないように見るさ」

「なっ……!」


 周りは全員絶句する。まさか誠がこんな奴だったなんて、と。


「男子には見る自由が、女子には服装の自由がある。それでいいじゃないか」


 誠はうっすら笑みを浮かべながら、そう言った。さらに続ける。


「文句が出るまでは問題は存在しないのと同じだ」


 腐り切った目がテミスを射抜く。こいつ、まともな奴じゃない……! テミスたちは言葉を発せずに立ち尽くすしかなかった。

 その沈黙を破るのはテミス。左目を手を当てて叫ぶ。


「この野郎……! 我に背くは断罪の対象!」


 とは言っても、殴ると校則違反になるからそれもできないテミスであった。

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