第15話 それぞれの放課後

その後、結局何も目立った出来事もないまま、放課後になった。

「零ちゃん!放課後みんなでカラオケ行こうよ!金曜日だし歓迎会ってことで!みんなはどう?」

「いくいく~!」

「僕は部活優先するかな。ごめん」

「行きまーす!」

レイスの歓迎会に参加するのはクラスの半分くらいだ。

康平は誘いが来る前に部活に行った。

もっとも、誘われるかどうかは別の話だが。

「花輪はどう?行く?」

「うーーん……行こうかな!」

「ありがとうみんな。嬉しいよ」

レイスは表向きには嬉しそうな表情を浮かべた。



「……レイスのやつ、見せびらかすみたいに……はぁ」

康平は更衣室でベルトを外し、体操着に着替える。

昼の授業が体育だったから、体操着が少し汗っぽくて不快だ。

「……なんてな。行こう」


更衣室の扉を開け、運動場へ向かう。

空はオレンジがかっていて、夕日に重なるカラスはまるで太陽の黒点のようだ。

「いい空だ。今日も頑張れる気がする……あ」

運動場へ向かう途中で、クラスメイト10人くらいのグループを見つけた。

「レイスの歓迎会としてカラオケだったな。ま、俺アニソンしか歌えないし」

康平は負け惜しみをこぼしつつ、運動場へ駆けた。



「………」

「どうしたの花輪?」

理彩はぼーっとしている花輪の顔をのぞき込んだ。

「あ、ああなんでもないよっ!夕日が綺麗だなって思っただけ」


花輪はさっきまで1人で部活に向かう康平を見ていた。

その時に感じたのは、些細な劣等感と惨めさへの同情。

「(今更頑張ったってコミュ障のあの人に友達なんて……傷つく前に諦めてほしいな)」

花輪は頑張った者には報われて欲しいと思うタイプだ。

それでも康平はもう手遅れだと思ってしまう。


「そうね、今日は夕日が綺麗で空気も澄んでいる。零ちゃんの前住んでいた所はどうだったの?」

理彩の質問にレイスはにんわりとした笑顔で答える。

「ここより空気が綺麗だったかな。深呼吸すると疲れが取れるんだ」

「なるほど、やっぱり零さんはカナダとかに住んでたのか」

「だから日本生まれ日本育ちだって」

「ははははっ」

レイスの周りのクラスメイトはとても温かくて、平和だ。


「あ、そろそろ電車でちゃうよ!次来るの30分後だから!」

「クソ田舎~~!!」

そうしてクラスメイト達は駅へと急ぐ。

「花輪急ぐよ!」

「……う、うん」

花輪も鞄を抱えて急いで追いかけた。

ちらりと彼女の眼に映ったのは苦しそうに走り続ける康平だった。



放課後から時間が経ち、午後9時。

「ああ……疲れた」

運動不足の状態から2日連続でランニング。

筋肉痛で苦しんでいた康平にはかなり応えた。

「まぁ、筋肉痛は筋肉が鍛わるチャンスらしいから……はぁ、喜ぶべきか」

自転車のこぎ方も普段と比べかなりぎこちない。

「……というかなんでレイスは入学してきたんだ?何か目的が?俺の監視のため?それとも嫌がらせか?……分からん」

康平は力無く家の扉を開けた。


「康平くん。部活お疲れ様~」

「…………おまえ」

「お帰り~康平」



扉を開けると”何故”かそこに魔王レイスがいて、後ろに立っている康平の母も”何故”かニコニコしていた。



「今日は疲れたでしょう。弁当出して。洗いたいから」

「……お前」

「ありがとう零、お弁当は私が洗うから康平の鞄から出してくれないかしら」

「……お前お前お前…」


疲れがたまっていたのもあるし、色んな謎で頭がいっぱいになっていた康平のリミッターが………


「「なんでここにいるんだよ!!」」


振り切れた。


次回に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る