第五話 秘密
”人生を覗かれる” 普通の人生を過ごしていると考えもつかないことだろう。
「私、人の人生を覗けるの」
「そ、それは、どういう冗談で、」
半ば冗談だろうとおもってきくと、彼女はさっきとは違う顔で見つめていた。
「私ね、正義感が強いのはわかるでしょう?君をはじめてみたときにね、いかにも言いたげな顔をしてて、興味がわいたの。ほら、授業中みんなスマホ触っているでしょう。それなのに一人頑張っていたし、すごいなって」
いきなり褒められた感じがして、少し照れてしまった。頬が赤くなっているのが手に取るようにわかるように。そして、自分の秘密を言った彼女は肩の荷がおりたように、「なんだかすっきりした」といった。
「あの時、どうして涙を?」
明音さんは虚を突かれたように
「あ、あれは」と言って、いつもどうり、首をさすっていた
「嘘。つかないでください。」
というと、彼女は笑って答えた。
「じつは誰しも覗けるってわけではなくてね。自分と自分が興味をもった人とである程度、関係を築かないといけないの。」
「なら、どうして泣く必要が?」
「前も言ったように、思っていた人と違う感じがしたの。こう、もっと悪ふざけができる人だと。」
「失礼だろ。」
「そうそう。失礼なのよ、私。だから自分が嫌で泣いちゃったの。」
なんとなく理解できたような気がした。今まで疑問に思っていたことがだんだんと紐解かれていくようで自分も肩の荷が下りた気がした。
「そこでね。」
”関係値を築く” そういう条件のようなものは目に見えず、どこで判断すべきかわからないらしい。しかし、もう彼女には俺の人生が見えているらしい。
「あなた、剣道にトラウマがあるでしょう。」
言われたくない言葉だった。自分が大学でも一番懸念していたことだった。もしかすると、自分はこれがいやで大学も同じように嫌になってしまったのかもしれない。
高二の秋の日、いつもどうり部活終わりで自販機に立ち寄った。
「今日は何にすんのっ。」
と言って肩を小突くのは、当時親友だった”隼”だった。そいつはいつも笑顔で、部活の中心にいるような存在だった。自分にとってそいつはパートナーであった。
だからこそ練習の時も切磋琢磨し、お互いを鼓舞しあった。
それの成果が試される高二の冬の大会。朝五時に起き、朝ごはんを食べ、身支度をする。ほとんどいつもと変わらないのに足が震えるのはなぜだろう。こんな状態では試合にはもちろん、竹刀も握れないだろう。その状態を見かねて、
「おい!笑。緊張しすぎだろ!」
今でも覚えている。ぼさぼさの髪の毛のまま歯磨きをしながらいつものごとく小突いてくれた。その行動がどれだけ支えになっただろう。その瞬間、なぜか足の震えは止まった。
「っるせーよ笑。ほら、さっさと歯磨け。」
試合が始まろうとしたとき、隼は来てくれた。
「勝てよ。」というそいつのセリフは後にも先にも聞くことはなかった。
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