英国メイドとダンジョン除霊攻略!

甘辛煮浸し

N00 プロローグ


隣にいる、サラの髪が銀から金に変わる。

「霊視します……!」

半袖のパフ・スリーブから伸びた陶器じみた細い腕が、翡翠色のオーラをまといはじめる。

緩やかなウェービー・ヘアがふわっと浮いて、顔の右側を大きく隠している長い前髪が揺れた。


山奥の真っ暗な廃病院のなかで、俺と英国メイドのサラは〈霊〉と対峙していた。


彼女は透き通った長い爪で、そっと前髪を耳にかける。右の瞳は玉虫色にかがやき、カーテンの裾が強風でひるがえるように、さざなみ立っている。

「……いますね、〈霊〉が」


「オーケー、サラ」と俺は言った。

「こっちは準備ができているよ」


サラは微かに頷く。

「わかりました、〈羚羊れいよう〉」

彼女の顔をちらと見ると、額には汗が浮かんでいる。まだ、少し緊張しているようだ。うまくいくのか、自信がないのかもしれない。きっちりと上までボタンが留められた黒のシャツに包まれた豊かな胸も、息が乱れているせいか、やや大きく上下していた。


「大丈夫だ」と俺は重ねて言う。

「君の目には、既に協力な〈幻視〉が眠っているだろう?それをうまく使役するのは俺の役目だ」


「……ええ」サラはぎこちなく言ったが、やや筋肉のこわばりは緩んだようだった。髪はもはや小麦の黄金色の域になりつつある。十分だ。

「では、〈幻視〉します」


サラが、左目をつむる。

「オーダー。〈口裂け女〉を呼び出します」

右目からホログラムに似た、虹の粒子が溢れ出す。「まだ慣れませんが……!」そう言って、彼女は俺に近づいて、左の掌に光を発している右目を近づける。


彼女のしだれた金髪から、柑橘を思わせる香りがしてくる。

俺の掌(かつて撮影機材を握っていた方の掌だ)には、〈羚羊〉の蹄を模した、銀色の印が刻まれている。そこにサラの右目から流れたホログラムが流れ込む。


「〈口裂け女〉を使役する」

途端に冷え冷えとした、〈霊〉の感情が流れ込む。


醜への憎悪。美への憎悪。

これに、押し流されてはいけない。


「サラ、ありがとう」

口が裂けて行くのを感じながら、俺は対峙する〈霊〉に向かっていった。

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