第3話そして予期せぬ救世主(後編)
第三話:静寂を破る黒い稲妻、そして予期せぬ救世主(後編)
刃物を持つ男が、ロミオに向かって襲いかかった。鈍く光るナイフが、太陽の光を反射して、菜々美の目を射る。
「ロミオ、危ない!」
菜々美の悲鳴は、もはや公園全体に響き渡った。ロミオは、まだ最初の犯人をしっかりと押さえている。しかし、新しい脅威に気づいた彼は、本能的に身を硬くする。
ナイフを持つ男が、躊躇なくロミオに向かって振り下ろした。
「ガウッ!」
激しい鳴き声と共に、ロミオの身体が大きく揺れた。ナイフは彼の肩を切り裂いたのだ。血が、黒い毛並みに鮮やかな模様を描き出す。
「ロミオ!」
菜々美は、心臓が凍り付くような恐怖を感じた。ロミオが倒れる。地面に、その大きな身体が崩れ落ちるかのように見える。
「もう、やめて!」
菜々美は、必死に叫んだ。ドッグミーティングに参加していた他の犬たちも、怯えたように飼い主の後ろに隠れる。彼らの飼い主たちも、恐怖と驚愕の表情で、ただ見守るしかない。
しかし、ロミオは倒れたままではなかった。傷を負いながらも、彼は再び立ち上がったのだ。その瞳には、痛みよりも、怒りと、菜々美を守ろうとする強い意志が宿っていた。
二人の男は、ロミオが倒れたと思い込んでいたのだろう。油断した隙を突き、もう一人の男がナイフを持った仲間の元に駆け寄ろうとする。
だが、ロミオはその隙を許さなかった。
「グルルル…」
低く唸り声を上げながら、ロミオは再び二人の男に飛びかかる。今度は、ナイフを持つ男の腕に噛みつき、激しく抵抗する。ナイフが振り回され、ロミオの体に再び傷がつくが、彼は決して手を離さない。
最初の犯人も、二人の仲間が襲われているのを見て、必死に抵抗を試みる。ロミオは、その状況下で、二人の男を同時に相手にしていた。
もはや、ただのドッグミーティングではなくなっていた。それは、命懸けの格闘シーンだった。
「ロミオ!もういい!やめて!」
菜々美は、泣きながらロミオに呼びかける。ロミオは、菜々美の声に気づいたのか、一瞬動きを止めた。しかし、その目はまだ、男たちに向けられている。
格闘の末、ロミオの渾身の一撃が、ナイフを持った男の腕に重く食い込んだ。男は悲鳴を上げ、ナイフを落とした。その隙に、ロミオは最初の犯人の元に戻り、再び彼の肩にしっかりと噛み付く。
ナイフを落とした男も、仲間も、動けなくなっていた。ロミオの執念とも言える追跡と、その力強さに、二人の男は完全に戦意を喪失したようだ。
「…やった、ロミオ、やったわ!」
菜々美は、涙を流しながらロミオの元へ駆け寄った。肩には、深い傷。それでも、彼は菜々美の呼び声に応えてくれたのだ。
「大丈夫?ロミオ、大丈夫なの?」
菜々美がロミオの傷口に触れようとすると、ロミオは弱々しく唸り声を上げた。しかし、その瞳は、菜々美を見つめ、安心させるかのように尻尾を微かに振った。
その時、公園の入り口にパトカーのサイレンが鳴り響いた。誰かが通報したのだろう。
警察官たちが到着し、あっという間に状況は収束した。ひったくり犯と、その仲間たちは連行されていく。
そして、警察官たちは、傷ついたロミオを見た。
「…これは、ひどい怪我だ。すぐに獣医さんのところに…」
そう言って、一人の警察官がロミオに手を差し伸べようとした。
しかし、ロミオは、その警察官の手を、低い唸り声で拒んだ。彼は、まだ菜々美から離れたくないかのように、彼女の足元に寄り添っていた。
その様子を見ていたドッグミーティングの参加者たちは、唖然としていた。先ほどまで、ロミオの存在に怯えていた彼らだ。目の前で繰り広げられた、あまりにも獰猛で、しかし圧倒的に勇ましいロミオの姿。そして、その傷ついた姿。
彼らの顔には、恐怖というよりも、困惑と、そしてどこか尊敬のようなものが混じり合っていた。
「…信じられない…」
「あの、大きなドーベルマンが…」
「でも、私たちを守ってくれたんだ…」
様々な声が、静かに交わされる。彼らは、ロミオの圧倒的な存在感に、恐怖を感じていたはずだ。しかし、今、彼らの心の中に芽生え始めたのは、ロミオという犬への、複雑な感情だった。
菜々美は、ロミオの頭を優しく撫でながら、静かに微笑んだ。今日の出来事は、あまりにも劇的だった。そして、ロミオの勇気は、誰にも疑うことのできない、確かな証だった。
もしかしたら、今日、ロミオは、彼を恐れていた人々の心を、少しだけ変えることができたのかもしれない。静寂を破る黒い稲妻は、まさに、すべてを変えていく、唯一無二の存在だった。
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