コアラ・パトロール

oga太

第1話

 ここはとある動物園。

点検係の田中さんが、コアラの檻の中へと入ります。

扉の前に立ち止まり、プラスチックのカードをポケットから取り出します。

それを、扉の横にある白い四角いカード・リーダーにかざすと、ピッ、と音がして扉が開きました。

動物園では、動物たちが逃げ出さないように、鍵がしてあるのです。

檻の中へと入る田中さん。

もわり、と温かい空気が顔に直撃します。

檻の中は、コアラが快適に過ごせる温度がキープされています。

田中さんは手さげから、青い細長い棒を取り出して、それをビュンビュンと振りました。

青い細長い棒には、窓があり、そこに30℃と表示がされました。

田中さんは毎日、こうやって部屋の温度を測ります。  


「異常なし」


 すると、田中さんの腕に、もふもふのグレーの何かがしがみつきました。

田中さんは、にこっ、と優しい声で笑いました。


「おはよう、マーチ」


 マーチとは、はこの動物園で飼育されている、男の子のコアラです。

点検係の田中さんの仕事に興味津々で、いつも腕にしがみついて、この後の点検を見学します。

檻から出ると、マーチもしがみついたまま、一緒についていきました。

これがマーチの日課なのです。

マーチは、点検係の田中さんが壊れた扇風機を修理したり、映らなくなったテレビを直すのが大好きです。

いつも間近でそれを見て、気づけばひとしきり、点検や修理のやり方を覚えていました。

 そして、夜になりました。

みなさんは、真夜中の動物園を想像したことがあるでしょうか?

昼と夜とでは、動物園は人と動物が、「入れ替わる」のです。

ピッ、ピッ、ピッ、と、何やら扉の鍵を開ける音がします。


「みんな〜、出ておいで〜」


 チンパンジーのチンパニー君が、どこからか手に入れたプラスチックのカードを手にして、動物園の中をグルグル回ります。

檻からぞろぞろと、動物たちが出てきました。

ゴリラが伸びをして出てきます。

像が、ズンズン出てきます。

キリンが首をもたげて、カフェスペースへと向かいます。

檻の鍵が開くと、コアラはプラスドライバーや、ニッパー、などの工具が入ったベルトを装着し、出てきました。

人間サイズの道具を、ちょっと重そうに引きずります。

まだまだ点検は不慣れですが、頑張るぞ、と気合を入れるマーチ。 

さあ、夜の点検の始まりです。

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