俺の男友達は当然ながら美少女である

佐々木のぶゆき

第1話

「行ってきまーす」


 春爛漫。今年から始まった高校生活に胸を躍らせ登校する。正確には二度目の高校生活。

 前世では基本的に面倒くさいとしか思っていなかった学校も、サラリーマンを経て転生した今生では得難いものであったと改めて実感する。特に青春なんてものは過ぎ去ってから惜しく思うものだった。


 俺はいわゆる転生者というやつだ。生まれ変わりでもいい。輪廻転生なんて信じてはいなかったが、どうやら本当にあったらしい。

 死んだ記憶はないが前世ではサラリーマンであったことは覚えている。程ほどに勉強してそこそこ良い大学に進学しそれなりの企業に就職した。


 転生といえば昨今ではファンタジー世界が取り沙汰されているが俺の場合は前世と変わらない全く普通の世界であった。おおよそ歴史の流れは変わらず車も空を飛んじゃいない。全く変わらない世界だ……とある一点を除いては。


 今の俺は高校一年生の美波悠人。第二の青春を謳歌している。今日も今日とて通学に勤しむのだ。


 学校に近づくにつれちらほらと学生が歩いている。割合に早い時間だというのに真面目な学生は意外に多いものだ。感心していると不意に後ろから肩を組まれる。


「よう悠人!早いじゃんか」


「いきなり組まれるとびっくりするじゃん拓海」


 こいつは幼馴染の広瀬拓海。健康的な小麦色に焼かれた肌はまさしく彼がスポーツ少年であることを示している。

 そして何より目を引くのはこの巨乳である。先ほどから豊満な胸をこれでもかと押し付けてくる。はだけた制服から僅かに覗く褐色っぱい。まだまだ肌寒い季節にもかかわらず彼の体温は高い。軽くランニングでもしたのかうっすらと汗ばんでいる。ぎゅうとくっ付かれると柑橘に似た甘くフレッシュな香りがする。

 俺は別に匂いフェチというわけではないのだが、美少女の香りという付加価値もついて天然アロマとでもいうべき風情だ。


 そう美少女。見た目も、感触も、匂いも美少女。その美少女がまるで男友達のようにくっ付いてきているのは拓海が男友達だからだ。彼をスポーツ少年と称したがそれは間違いではない。こいつは男友達だ。何を言っているかわからないと思うがこいつは男なのだ。


 先ほど言ったある一点とはこの事である。この世界の人間は男女問わず皆美少女だ。より正確にいうと俺にとって、という枕詞がつく。この世界にも性別はある。ただ俺にとっては等しく美少女にしか見えないというだけ。ついでに言うと顔面偏差値も前世と比べて異様に高い。周りにいる登校中の学生は皆アイドルグループにいてもおかしくない美少女ばかり。通勤中と思しきスーツ姿の男性も朝ドラの主演を張れるレベルの美女。


 そして友人の拓海は陸上部なのだがこの世界基準でもいわゆるイケメンだ。健全なスポーツ少年系の爽やかイケメンだ。

 つまり俺にとってはとんでもないレベルの美少女と化す。そんな巨乳美少女が抱き着いてきているのだ。一体前世でどれだけ徳を積めばこれほどの幸せが享受できるのだろうか。一介のサラリーマンだった俺に許されていいものなのか。疑問も邪念も尽きないがとにかくこの日常を、幸せを、全身全霊で味わっている。


「あー朝練疲れたぁ。運んでってくれよー」


 だらりと脱力しさらにしなだれかかってくる拓海。体格に優れる拓海に押しつぶされる形になった。実際に結構な重量を感じるがそれ以上に脅威的なのはやはり拓海の巨乳。この柔らかさと重量感は最早暴力的ですらある。


「ぐええ重い重い」


 確かに重いがその重さは俺にとっては紛れもないご褒美だ。


「へへっ、このまま学校まで背負っていけ」


 からからと笑う拓海。その無邪気さも愛らしい。


「横暴だー訴えてやる」


「うるせーよ歩け歩け。遅刻するぞ」


「はー仕方ないなぁ」


 やれやれ仕方ないな。疲れている友人を放ってはおけない。本当に仕方ないのだ。決してこの感触と匂いを楽しむためとかそういうのではない。


 拓海の両足に腕を回し本格的に抱える体勢に入る。ふむ、適度に筋肉質でありながら薄く脂肪を纏うスポーツマンな太もも。非常に良いディモールトベネ


「うぉ!マジで背負ってくのか!?」


「はっはっは。お前が言ったんだろ。発言には責任を持てよ」


「まじかよ……これ恥っずいわ」


 学校まで大体1キロ程度。人一人を背負っていくには少々長い距離のように思うかもしれないが俺にとっては違う。美少女を背負っていくのだ、むしろ短いくらいである。


 それにしても、おそらく赤面しているであろう拓海の表情が見られないのは少々もったいないな。



 ◇◇◇◇



 教室に入ると何やら騒がしい。学生服から察するに男子高校生の群れであろう。あの辺は春雨の席か。同級生の群れをかき分けて中心部に行くと案の定春雨だった。


「うぇっへっへお前も見るかぁ~悠人ぉ?」


 春雨がエロ本を広げていた。これが人ごみの原因か。

 こいつは佐藤春雨。明るい栗毛のショートヘアー。小柄で小動物系、くりっとした目の人懐っこそうな美少女(男)だ。


「このデジタル全盛で本かよ」


 大抵の学生はスマートフォンでアダルトコンテンツを鑑賞していると思うが春雨はどうやらアナログ派らしい。


「馬ぁ鹿野郎!こういうのは紙媒体だからいいんだよ!デジタルは個人で見るもの、こういうのは皆で見るから趣があるんだ、あるだろ紙には!趣が!電子媒体では味わえない温かみが!!」


 なにやら持論を力説している。




「ああ確かに分かる」「春雨いいこと言った!」「うーむ含蓄のある言葉だ」「春雨は協調性に優れた変態だな」


 わいのわいのと周りの男子達も同調している。鈴を鳴らしたような可愛らしい声だ。しかし入学からそれほど経っていないというに男子達から支持されている春雨はうらやましい程にコミュ力の高い男だな。方向性はともかくとして。


「んで、悠人は見ねーの? 見たいだろ」


 くりりとした瞳で聞いてくる。彼は座っているので必然的に上目遣い。この美少女の頼みを断れる男がいるだろうか、いやいないね(反語)。


「みるみる」


「よーしよしそうこねーとなぁ。これなんてアレまで見えてるぜ、うえへっへ……」


 独特な笑い声をあげながら本を鑑賞している春雨と男子一同。俺はというと本もそこそこに春雨の顔を横目で鑑賞している。彼の美少女フェイスは今や締まりのない顔をしている。

(ふぅむ……美少女がエロイことに夢中というのは中々にそそるものがあるよなぁ)


 特に春雨のようなあどけない美少女のだらしのない表情は背徳感もひとしおだ。うえっへっへっ。


「ほーお、お前学校になーに良いもの持ち込んでんだ」


 いきなり現れたのは生活指導の山本先生だ。生徒からは強面の鬼山本と恐れられている。俺からすると長身のクール系スレンダー美女だが。


 蜘蛛の子を散らすように逃げていく男子生徒。薄情とはいうまい。俺もそそくさと退散する。すまん春雨。


「げぇ山本せんせー……。いや、違うんですよぉこれは。生徒間での親睦をね、えーと」


 しどろもどろな春雨。媚びるような表情も当然生活指導の先生に通用するはずもなく本は没収。春雨も無事お縄となった。


「全く、放課後生活指導室こいよ」


「はーい……」


 眉根を下げしょぼんとしている春雨。落ち込む春雨もこれはこれで可愛い。


「春雨さいてー」「きも」「汚物ね」


 そして春雨はクラスの女子から大変不評を買っていた。さもありなん。

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