第22話 新メンバー、加入……?

「嫌よ! 絶対嫌!」

「ダメだったか……」


 アジトにて。アイラとウラが刑務所から戻ってきたところで、アセラさんがメンバーになることを伝えた。

 それから十分ほど、アイラが怒り続けている。


「ちょっとナイ君? ギャングに入れてくれるのと違うの?」

「俺に文句ですか。全ての原因はアセラさんなんですけど」


 ちなみにウラは昼食中。キャラはすぐそこにいるが、マイクをミュートにしているみたいだ。


「アイラ、お願いだから許してあげてほしい」

「本当にムリ! 一発……いや、百発殴らないと許せない!」

「うーん……」


 百発って……アセラさんがそれを認めるとは到底思えないけど。


「ええよ。殴っても」


 しかし、アセラさんは承諾した。


「ふーん……本当にいいのかしら?」

「私が悪いことは間違いないからなあ。百発でも二百発でも、全然殴ってくれて構わへんよ?」


 実際に殴るのはキャラクターだけど、それで気が晴れるのなら良いという判断だろう。


 ……いや、なんか違う気がする。アセラさんがそんな判断をするわけがない。腹の中で悪いことを考えているように思えてきた。


「じゃあ殴るわよ……」

「ちょっと待ってな、アイラ君。後学のために知っておきたいんやけど、殴るのってどうやるんや?」

「え? 相手に向かって右クリックするだけだけど……」

「分かった。おおきにな。ほら、好きに殴って?」

「……」


 アイラも少し疑っているみたいだけど、殴りたいという自分の感情を優先しないわけにもいかないのだろう。


「死ねえええええええええ!」


 アイラのキャラが腕を大きく振りかぶった。吐き出された暴言が響いて聞こえる。


「あほか! 素直に殴られるわけないやろ! うひゃひゃひゃひゃ!」


 やっぱり思った通り。汚い笑い声を出しながら、アセラさんのキャラもアッパーを繰り出した。アイラが油断したところで殴り返すという狙いだったみたいだ。


「……はあ」


 アセラさんは殴られるつもりなんて毛頭なかったのだ。この後にアイラがまたブチ切れるんだろうなあ。めんどくさいなあ。


 ……そう思ったのだけれど。


 両者の拳がかち合った、次の瞬間。


 二体のキャラがとてつもないスピードで殴り合いを始めた。 


「な、なんやこれ、どうすればええの!? 操作方法が分からへんのやけど!?」


 アセラさんが困惑の声を上げる。……操作方法が分からない、というのはどういうことだろう。


 俺の視点からでは二人のキャラが殴り合っているだけにしか見えない。リスナーたちも『え?』『何が起きてんの?』というコメントをするばかり。


 アセラさんの画面には別の何かが映っているのだろうか。そんな疑問を解消させてくれたのはアイラだった。


「ふふ……二体のキャラがほぼ同時に攻撃モーションを発生させると、ミニゲームが始まるのよ。ルールは単純。タイミングよく指定されたキーを押せなかったら殴られる!」

「そ、そんなん知らんのやけど? ちょっとだけ待ってくれてもええんと違う?」

「待つわけないでしょうが!」


 決着は一瞬で着いた。このゲームに精通しているアイラのキャラの右ストレートが綺麗に顔面に炸裂。アセラさんのキャラが背中から倒れた。


「いえーい! あたしの勝ちー!」

「嘘や……あーもう最悪や……」


 アセラさんの落胆した声が聞こえてきた。

 可哀そう……ではないか。自業自得だ。


「殴ったらスッキリしたわ! ギャングに入っても構わないわよ!」

「くっ……覚えときや……」


 ということで、色々あったが、何とかアセラさんのギャング加入に異論は無くなった。アセラさん以外にとってはめでたしめでたしだ。


「これでアルゴは完成かな」

「五人目は探さないのかしら」

「……めんどい」


 もう知り合いがいないため、労力を考えるとマジでしんどい。探さない方がいいだろう。


「そりゃめんどいやろなあ。だってナイ君は」

「陰キャじゃないから。なんですか? ギャングから出ていきますか?」

「まだ言ってへんかったのに……というか、それは怒ってるん? 声に感情が無いから分からへんのよ」

「それ、あたしも思ってたわ」


 そうか、まだこの二人には言ってなかったか。


「めちゃくちゃ怒ってます。声に感情がないのは生まれつきです」

「そうなんやね……自分で怒ってるアピールすんの、恥ずかしくないん?」

「恥ずかしいに決まってるでしょ。これからは俺がキレてる時はちゃんと察してくださいよ」

「あなた、めんどくさいこと言うわね」


 それはお前だけには言われたくなかったぞ、アイラ。

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