番外編 ある日の配信:もうやめて!(以下略)
「やっべ、やらかした」
とある夏の日。いつも通りゲーム配信をしていた俺は、シンプルなプレイングミスを犯してしまった。
「うわー、年を感じるなあ。俺はもうじじいなのかなあ」
どうやら反射神経を必要とするゲームでは、20歳前後が全盛期らしい。悲しいかな、もう26歳。
数年前ならやらないような失敗を、平気で重ねてしまう今日この頃の俺だ。
「はあ……イライラするね」
軽く貧乏ゆすりをしながらコメ欄に目を向ける。
「『じじいだ』『優先座席使いな』『喉詰まらせないようにね』か。マジで死……いや、何でもない」
暴言が出てしまうところだった。危ない危ない。
にしても……視聴者たちは俺に対して、本当に言いたい放題だ。
こんな状況が続くのはあまり良いことではないだろう。最近では視聴者と配信者間の関係性が何度も問題になっているし。
たまには注意喚起をしたっていいはず。きっとそうだ。そうに違いない。
いつもみたいに喧嘩腰で言っちゃうと反抗されるだろうから、優しく注意しよう。
イライラを抑えるんだ、俺。
「えっとね、自分で言うのと人から言われるのは違うってこと、分かるよね」
よし、良い感じだ。年下の子供に教えを説くような喋り方ができている。
この調子で続ければ、視聴者たちも耳を傾けてくれるはず――
「まあ分かんないか。みんな、ネットでしか人と喋ってないもんね」
――やっちまったああああああああああああああああああああああああ。
いや、いつもの癖でさ。言葉で一発殴られたら、こちらも一発殴り返す、っていうのが習慣化されていたというか。売られた喧嘩は買うのが漢というか。そういうノリで10年近く配信をしてきたというか。
だから、俺は悪くない。俺をこんな人間にした環境が悪い。
……と、言い訳をしてみたけど。
もうこうなった以上、こいつらと喧嘩するしかない、か。
敵は視聴者たち。全員ぶっ飛ばしてやる。
10年間も鍛え続けた俺のレスバ力を、舐めるな。
「『毎日家族と喋ってるよ』って……」
いや、お前……それは反則だろ……。寂しく一人暮らししている俺にこうかばつぐん過ぎるだろ……。
つい最近の誕生日では、毎年あった両親からの電話が無くなったし。祝ってくれたのは一部の心優しい視聴者だけだったし。コンビニで買ったショートケーキを口に入れた時に涙こぼれちゃったし。
……俺の人生、辛くないか? なんでこんなことになってるんだ? 普通に生きてるだけなんだけど?
なんかイライラしてきた。もうレスバとかどうでもいい。全員抹殺する。
「なんだそれ、自慢か? お前BANな。二度とコメントするな。それで……『彼女と喋ってる』、お前もBAN。黙れよ、マジで……もう……」
彼女なんていたことない。ふざけてる。高校生の頃から収入を得ているエリートだというのに。
どんどんイライラが増してくる。目が潤んできたのは、恐らく汗によるものだろう。涙ではない。別に年を取って涙腺が緩んだとか、そんなことはないのだ。
……一人も許さないから。
「『友達いるけど?』……てっめえ……マジで……ぐすん」
結局、主婦リスナーからの『かわいい娘と毎日お喋りしてますよ』というコメントが会心の一撃となり、俺のメンタルがズタボロになった時点でこの日の配信は終了となった。
なあ、結婚ってどうやるんだ? ゲーム配信してるだけじゃ無理なのか? 無理ですよね。知ってますよ。はあ。
……もっと引きこもりに優しい世界であってくれ。そう思う俺だった。
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