第40話 頼れる大人

今日は琴花がずっと綴にちょっかいをかけるから、それをガードし続けている間に学校が終わった。


そんな生活何日か続けたところで、そういえば私はお父さんのことで考えなければならないことを思い出した。

だから私は小崎さんに相談に乗てもらおうと思い、連絡をし、小崎さんの家に来た。


「それで、正義さんのことで話したいことって何かな」


小崎さんは机にコーヒーとりんごジュースを置きながら私の対面に座る。


私のお父さんの名前って正義なんだ。

うーん、普通に知らなかった。

正直、お母さんの名前もうろ覚えで……。

久美子だっけ?千恵子だっけ?

まぁいいか、今重要なのは名前じゃないから。


「こないだ私、彼女の家に泊まったん―「彼女?!!?!」


キーンと耳がなる。

うるさっ。


「え、え、?尊彼女いたの?いつから?」


「最近だよ、夜来綴っていう子なんだけど……」

「あ、彼女ってことにびっくりしたの?」

「でも私レズビアンって訳では無いんだよね、綴が好きなだけで、性別は関係ない」


そう言うと小崎さんは腕をブンブン振りそれにびっくりした訳じゃないよと言った。

私は小崎さんに否定されなかったことが心底嬉しかった。

正直実の母よりも小崎さんのことをお母さんだと思っている節があるから。

結局ただ甘えてるだけなんだろうけど。


「尊が好きになった子ってことはいい子なんだろうから私は特に気にしてないよ」

「話遮ってごめんね、続きをどうぞ」


「…ありがとう」

「えっと、」

「綴の家に泊まった時に、綴の父親がお父さんの秘書しててさ、そこから綴の母親にお父さんの話が伝わってたみたいで、お父さんが1度でいいから顔を見せに来て欲しいって」

「私は、どうするのが正解か分からなくて」

「お父さんに会ってもどうするのかなって、正直私からしたら会う理由なんてなくて」

「でもさ、会ったらお父さんとお母さんの今の状態を知れるなら会ってもいいと思ったけどさ……」


そこで言葉を詰まらせていると小崎さんは言葉を紡ぐ。


「……知るのが怖いの?」


そうなのかもしれない。

私はきっと怖いのだろう。

両親のことは家を出てから一切知ろうと思わなかった、否、知りたくなかった。

私が家を勝手に出たことで、お母さんがどうなったのか考えたこと無かったし、お父さんなんてほとんどあったことないからそもそも気にしてなかったんだ。

お母さんが私のことを恨んでたらどうしよう、お父さんは私と会って、何がしたいのだろう。

分からないから、知らないから怖い。

でも知ろうとすることも怖いのだ。


「そう…なんだと思う」

「小崎さんだったら、どうする?」


「私が尊の立場だったら?」


「そう」


「うーん……」


小崎さんはコーヒーを1口含み、少し考えたあと


「私だったら会わないかな」

「今まで、気にしてなかった人達というか、自分の人生を狂わせた人達に会いたいとは思わないかな」

「わざわざ過去のことに執着はしたくない」

「でもさ、尊はそうじゃないでしょ?」

「私は、きっと尊と同じことに会っても過去のことだからって忘れると思うけど、尊は考えてないけど気にはしてるでしょ」

「じゃなきゃあ、私が学費払うからって言ったのに無理してバイトする必要なんかないよ」

「まぁ、私に対して申し訳ない気持ちとかもあるんだろうけど……」

「だから、私的には会った方がいいと思う」

「無理して会えとは言わないけど、会いたいなら会いな」

「1人じゃ勇気が出ないなら私も一緒に行ってあげるから」


小崎さんの言葉で私の心はだいぶ楽になった。

やっぱり話を聞いてもらうことって大事だ。


「ありがとう小崎さん……ほんと、助かります」

「私、お父さんに会いに行こうと思う」


「お易い御用だよ気にしないで」

「私も姉の現状知らないからさ、いい機会だよ」


小崎さんは私の頭を撫でてくれる。

お母さんにも撫でられたこと無かったから、大人の人に撫でられるってこんなにも気分が落ち着くものなんだなと感じた。


「あ!あと尊にひとつ聞きたいことが会ったんだった」


「……何?」


「バイトのことなんだけどさ、彼女できたなら減らさない?」

「何回も言ってたけどさ、バイトで今の楽しい時期を潰すことないよ」

「今まで働いた分は尊のために使ってほしい」

「学費のことだって本当に気にしなくていい、全部私が払うから」

「子供は大人に甘えてればいいんだよ」

「どうせ尊も大人になれば嫌という程働くことになるんだから、学生の間は楽しんで欲しいんだ」

「だからどうかな?」


「甘えて、いいの?」


「いいよ、全力で甘やかしちゃるから、どんどん甘えておいでよ」

「尊は可愛い姪っ子だからさ」

「まぁ、私子供いないから尊が自分の子供みたいな気持ちだわ」


「……小崎さん、ありがとう」


「その小崎さん呼び辞めない?」

「家族なのに他人行儀すぎるから」


「じゃあ……、千春さん?」


「千春ちゃんがいい」


なんかむくれてる。

急に子供っぽくなるじゃん。

さっきの頼りがいのある大人はどこ行ったのさ。


「千春ちゃん」


「よしよしよし、次からはそう呼んでね」


「千春ちゃん、今年でなんさ―「呼び方に年齢関係ないから」


笑顔が怖い。

年齢は聞いちゃいけなかった。

でも千春ちゃん、多分30代後半くらいだと思うけど、全然見た目若いんだよな。

20代くらいに見える……。


「とりあえず、夜ご飯食べた?」


「ううん、食べてないよ」


「じゃあ食べて行きなよ、あれなら泊まってってもいいし」


「じゃあ泊まろっかな」


「OK―」

「何食べたい?なんでも作れるよ」


千春ちゃんは椅子から立ち上がりキッチンに行き、冷蔵庫を覗いている。


「千春ちゃんの好きな物食べたい」


「……尊って絶対学校でモテてるよね」

「罪作りな女だな」


「彼女いるからモテてもどうでもいい」


「ゾッコンですね〜」

「今度紹介してよ」


「会う機会があったらね」


他愛もない会話をしていたら料理が完成したらしく、机に並べられた。

ご飯、味噌汁、生姜焼き、サラダ、ほうれん草のおひたし……。

結構、量あるな。

そういえば私、千春ちゃんの手料理初めて食べる。

いただきますと2人手を合わせ、料理を食べる。


やばめっちゃうまっ。


「千春ちゃん、生姜焼きめっちゃ美味しい」


「んふふ、そりゃ良かったよ」

「いっぱい食べな」


私はたらふく料理を食べたあと、お風呂に入り、床に布団を敷いて二人で川の字になりながら眠りについた。


明日、綴のお母さんにお父さんと会いたいって伝えなきゃ……。

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