第47話 ニライカナイ株式会社 =沖縄県①=

 沖縄本島の南部。久高島を臨む静かな岬に、「株式会社ニライカナイ」はあった。代表取締役は、泡盛好きな初老のウチナーンチュ(沖縄人)。社員はわずか6名。だが、彼らの事業は壮大だった。


「ニライカナイ――神々が来訪する理想郷を、“コンテンツ化”して世界へ売り出そう、という話ださー。」


■サービス内容

・聖地巡礼ガイドツアー

・“島の精霊にお願いできる”AR祈祷アプリ

・「海底に沈んだニライカナイ神殿」バーチャル体験施設

・シマンチュ(島民)による“精霊語り”セッション(通訳付き)


 当初は地元の反発もあった。


「ユタの神聖な言葉を、客寄せに使うな!」


「祈りは、商品じゃない!」


 しかし、観光収入が村を救った。若者が島に戻り、伝統文化を“仕事”として受け継ぎ始めたのだ。ある日、東京から来た大手投資家がこう言った。


「素晴らしいコンテンツです。あとは“神様本人”が出演してくれれば完璧ですね」


 皆が笑ったが、誰かが本気でそう思っていた。その晩から、妙なことが起きた。


・海から光が射す


・精霊の石が勝手に積み上がる


・島の祈り小屋から、空き家だったはずの老婆の声が聞こえる


 そして、ARアプリの祈祷中に「本物の神様」が登場した。金色の衣を纏い、穏やかな表情でこう言った。


「もう、やめなさい」


 アプリは強制終了。観光施設は急に停電し、ドーム内の海神像が崩れ落ちた。島の長老は言った。


「ニライカナイは“来る”もんじゃなく、“想う”もんだ。金儲けにした瞬間、向こうの神は顔を背けるさ」


 数年後、「株式会社ニライカナイ」は静かに解散した。しかし、その活動で得た記録や体験は、“観光”ではなく“教育”として残った。島の子供たちは、こう語った。


「ニライカナイは、どこにあるの?」


祖母は笑って答える。


「ほら、お前が海を見てるその気持ちの中に、もう、あるさー」



(了)

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