第41話 屋台ナンバー制度 =福岡県=
福岡市は未来に向けて、ついに**「屋台ナンバー制度」**を導入した。かつて自由に並んでいた数百の屋台は、すべて「登録制・運営ライセンス制」に変更された。各屋台には、政府認可のナンバーが交付される。例えば、屋台番号【FUK-001】:博多ラーメン部門トップ認定、屋台番号【FUK-036】:焼き鳥カテゴリ準グランプリ、屋台番号【FUK-113】:外国人観光客対応Aランク。街角には「屋台ランク・スコアボード」なる電子掲示板まで立ち、リアルタイムで順位が更新された。屋台の親父たちは言った。
「味で勝負じゃなく、評価で勝負になったな」
「いつの間にか俺たち、アスリートか何かか?」
若者たちは言った。
「屋台ってこんなにルールあったっけ?」
「気軽に食べられたのが良かったのにな」
そんな中、「屋台番号なし」の**“無許可屋台”**が出没した。屋台の看板には、ただひと文字。
『夜』
それは深夜1時を過ぎた頃に、天神や中洲の路地裏に現れ、スーッと路地の奥に消えていくという。メニューもない。注文もいらない。椅子に座ると、何も言わずとも一杯のラーメンが出てくる。
***
それはどこか懐かしい味だった。塩辛くて、あたたかくて、少し泣けるような。役人たちは「非認可営業」として取り締まりに動くが、屋台『夜』はつかまらなかった。追えば消え、見つけた者は不思議と「通報しなかった」。彼らは、こう言った。
「あの屋台には、ナンバーじゃなく“記憶”がある」
「青春と後悔と、少しの酔いが、湯気になっていた」
やがて、屋台ランキング制度は徐々に廃れていく。ルールと効率の中で、**“味の無秩序”**を恋しがる声が増えたのだ。福岡市は方針を変え、こう発表した。
「一部エリアにおいて、自由営業枠を試験的に導入します」
今夜もどこかで、無言の屋台が湯気を立てている。ナンバーも看板もないが、そこには確かに、「夜」という名の思い出がある。
(了)
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