第33話 赤ヘル適性検査 =広島県=

 2028年。広島県。カープは「ファン参加型球団」としてさらなる進化を遂げていた。

 その中心にあったのは、県が導入した**「赤ヘル適性検査」**という制度だった。**赤ヘル適性検査(正式名:広島県地域一体型応援資格試験)**は、子どもから高齢者まで県民全員が毎年受験する、ちょっとした地元の“お約束”だった。出題内容は多岐にわたる。


・1975年初優勝メンバーの名前を5人以上答えよ


・「逆転のカープ」の由来を60字以内で述べよ


・マツダスタジアムの風の流れと打球の関係性を選択式で答えよ


・前田智徳を神格化した川柳を一首作れ


成績上位者には、カープから「赤ヘル準市民章」が授与され、観戦チケット優待や球場内での「立ち応援権」など特典が付いた。

 しかしある日、東京から転入してきた高校生・ハヤセが、適性検査にわざと0点を取った。

 その年、彼の家の郵便受けには、真っ赤な封筒が届いた。中には1枚の紙が。


《通知》

 あなたは赤ヘル適性0点を取得されました。広島県民倫理第21条により、以下の処置が執行されます。

・球場周辺立入制限

・お好み焼き店での“そばダブル”注文の権利剥奪

・駅で「カープ頑張れ」と話しかけられても返答義務なし


 ハヤセは戸惑った。なぜ、野球の応援ごときでここまで管理されるのか?

 そんな中、ある老婦人が彼に語った。


「この町ではね、“応援する”ことが生きることなの。広島って、そういう街なのよ」


 それから月日が経ち、ハヤセは大学生になった。ある日、雨の日のマツダスタジアムにふらっと立ち寄り、ふと、赤いユニフォームの男の子たちを見つけた。声援のない雨の中、彼らは全力で白球を追っていた。その姿が、なぜか心に刺さった。翌年、ハヤセは「赤ヘル適性検査」を再受験した。すべての記述欄にこう書いた。


「応援とは、意味を超えた行為だ」


「それは、人と街を繋ぐ、無言の合図だ」


「ぼくはそれを、雨の球場で見た」


 その年、彼に届いたのは「赤ヘル準市民章(特別枠)」。異例の認定だった。

 そして、今でも赤ヘル適性検査の問題文の最後には、こう書かれている。


【記述式問題】

あなたが応援を“やめたくない”と思った瞬間を書きなさい。



(了)

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