彼岸花

詩乃天夢

第1話

私のおばあちゃんが住んでいた町には大きな旅館があった。

その旅館は私が五歳くらいのとき、火災により廃旅館となった。

廃旅館の前には秋になると百三十八本の彼岸花が咲く。

彼岸花は昔から墓地に多く植えられていて、彼岸の時期に咲くことから、亡くなった人との再会を連想させるため、彼岸花の花言葉には「悲しき思い出」というものがある。

そんな話を、昔おばあちゃんから聞いた記憶が薄らとある。

たしか、廃旅館になったばかりの頃、あの真っ赤な彼岸花を数えながらおばあちゃんに花の名前を尋ねたのだ。

花が好きだったおばあちゃんはいつも道端に咲く花の花言葉を教えてくれた。

きっと、その時に聞いたのだ。

当時は理解できなかった花言葉とその意味を、今はしっかりと理解している。

そのため道端で花を見かけると、今は亡きおばあちゃんとの記憶が蘇り、少し寂しさを感じる。

秋になると、私はおばあちゃんとの思い出が詰まったあの廃旅館を訪ねる。

今日は一年ぶりに廃旅館を訪ねる日だ。


廃旅館の前で思い出にふけていると、一人の少女がやってきた。

少女は綺麗な白い彼岸花に見蕩れているようだった。

あの少女は五歳くらいだろうか。

近くに親はいないようだ。

今は夜中の二時、こんな遅い時間にどうしたのだろう。

ここにいて大丈夫なのだろうか。

私が少女に心配の目を向けていると、少女はなにか見つけたかのように私を見て駆け寄ってきた。

少女はしばらく私を見つめ、こう言った。


「綺麗だね、赤いお花さん。」

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