『悪魔と踊る』 その①

 悪魔。

 それは異次元からの刺客。

 彼らはこちらの次元の何者かと契約を交わし、呪いや災害を振りまく。

 目的は無い、彼らは悪意そのもの故に。

 ただ、彼らはこの次元に干渉するために一つの縛りが入る。彼らはこの次元の物にしか触れられないのだ。

 だから必然的に我々は知らなければならないのだ、異次元の物について――


■■■■


「これはドライヤーですね」


 銃にも似た形の機械を指し、エイラタンは言う。

 それのスイッチを入れると、先端の口から温風が出てくる。


「ふぅん……で、これって何に使うものなんですか?」


「確か、お風呂上りに髪を乾かしたり、整えたりするために使うものですね」


「……わざわざ不便ですね。魔法があれば事足ります」


 ここはマグナリアの南ブロックにあるジャンク屋である。ここには異次元からの漂流物や、『異世界転生者フォーリナー』の知識で作られた物のジャンクがたくさん眠っている。


「大体が、『異世界転生者』がその異世界知識を披露するために作られた物ですからねぇ。それでも、これらは電気があれば動くため、『火』の魔法が苦手な人、魔力調整が苦手な人には重宝されていますね」


「その通り。ここにあるものは魔法に依存しない物ばかりなのさ。『魔法で十分』? 『これはいらない』? 違う。こっちから言わせると『魔法こそいらない』なのだ!」


 店主のGゴールディ・ブラウンは胸を張って言った。確かにその発想は画期的ではあるが、人口に膾炙するのはかなり先になりそうな気がする。


祓魔師エクソシストさん達にはいつもお世話になっているからねぇ。君達を通していずれはこの考えこそが主流になりそうだよ」

 

 我々はそんな衆目を浴びる組織では決してない。我々を通じて何かが流行ることはまずないだろう。

 しかし、そんなことはおくびにも出さない。


「さて……エイラタン先生のと、ジーン先生の、メンテナンス完了したよ」


「いつもありがとうございます」


 エイラタンはお礼を言い、預けていた物品を受け取った。

 その直後であった。


「ん……おぉっと! ちょっと別のお客さんからSOSが入ったから店閉めさせてもらうね。本当はゆっくり見ていってほしいんだけど……ごめんね!」


 突然、Gは我々を外に出して店を閉めてしまい、自身は裏口からこそこそと出て行ってしまった。


「ふぅむ。もっと見ていたかったですが……店主が忙しいというなら仕方ありません。ゲルニックさんにとって良さげな道具は見つかりませんでしたね」


「ですね」


 対悪魔の武器というものを私はまだ持っていなかった。

 悪魔は異次元の物に弱い。だから武器も異次元の物が適しているのだ。このジャンク屋にはそれが豊富に揃っていた。


「しかし、ああ言う日常使いのものじゃあ武器にならないんじゃないでしょうか」


「何事も性能を過激にしていけば武器になり得るものです。あれらのジャンクを核にカスタマイズしていけば、悪魔への優位性を保ちつつ優秀な武器になってくれるのです」


「改造か……」


 今、私は一つ、異世界出身の物品を持っている。ただ、それが万年筆というペンの発展形でしかないため、改造するのは難しいだろう。

 やはり、他に何か私の手に合う道具を見つける必要があるのだ。


「……むむっ」


「どうしました? エイラタンさん」


「悪魔の気配です。ここからそう遠くはありません。行きましょう」


「はいっ!」


 我々は走り出した。


■■■■


 現場に到着すると、異様な光景が広がっていた。

 通りには何人もの人が倒れ伏していて、その周りにはあらゆる種類の虫がうじゃうじゃとたかっていた。

 巨大な何かが暴れまわったらしく、周りの建物にも大きな被害が出ている。よくよく見ると、その被害を受けた部分にも虫がたかっていた。


「大丈夫ですか!?」


 エイラタンは躊躇いなく虫を払い、まだ息がある人から話を聞こうとする。


「ここで何が起こったのですか!?」


「で、でかい化物が、暴れて……みんなを踏み潰して……」


 しかし、そこまで言ってその人は意識を失った。

 私は慌てて魔法信号弾を鳴らそうとするが、エイラタンがそれを止めた。


「それを鳴らすと悪魔がまたここへ来る可能性があります。そうすれば救急隊まで犠牲になってしまいます。まずは我々で悪魔を探さないと」


「なら急ぎましょう!」


 でかい化物、ということならば、見つけるのは容易だろう。


「いえ……せっかくですし、ゲルニックさんの能力のトレーニングでもしましょうか。さて、触りやすい虫はいますかねぇ……」


「え?」


 そう言って彼女は辺りに蠢く虫を掻き分ける。


「あ、いたいた。この子なんてどうです?」


 彼女が手にしたのは、大きなカブトムシであった。


「どうです、って言われてもなぁ」


「とにかく触ってみてくださいよ。えい」

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