第23話「アイラの過去」
魔族との交戦後——
勇者パーティの一人、アイラは一人見知らぬ場所へ飛ばされた。
「ごほっごほ……ここは……?」
そこは、底冷えのする洞窟だった。
先ほどまで魔族のいる要塞にいたはずなのに、どういうことだろう? とアイラは思った。
「あの魔族の魔法で、どこかに飛ばされちゃったのかな……ん?」
目を向ける先に、外への光が見えた。
外の様子を見るために、傷ついた体を引きずるようにアイラは歩いた。
「……嘘でしょ?」
出口に着くと、目の前に広がったのは、巨大な氷山と降りしきる猛吹雪であった。
氷山地帯となると、ルインズ王国から遠くに位置する場所であり、アイラはこの地帯の探索経験がない。もちろん地図なんてない。
つまり、どのように帰るか、生きるかの知識もなかった。
アイラはしばらく立ち尽くすことしかできなかった。
仲間のことが頭を渦巻くが、今はどのようにこの状況を切り抜けるかで精いっぱいだった。
アイラの持ち物は、身に着けていた装備一式のみ。
加えて、アイラの体は魔族との戦闘でボロボロであった。
回復薬などの持ち物は、別のバックにいれており、アイラと一緒に飛ばされてはいなかった。そのため、体の治療、飯、体を温める場所が必要であった。
幸い、火を起こす場所に洞窟は最適であった。
外の影響をあまり受けないためか、温度も外よりマシな環境であった。
しかし、問題は体の治療であった。
アイラは氷山地帯の知識に乏しい。
薬草の場所も特徴的であり、見つかることはなかった。
加えて、薪を取るために、近くの森に入った時……。
「ガアアアアア!!!」
「
森に入ったところを、7体の
推奨等級はB級。
氷を砕き、獲物を引き裂くために進化した硬質な黒爪が特徴の熊。
本来A級のアイラであれば何とかなりそうであったが、すでに満身創痍の状態で、体力も低下していた。
かつ7体も群れているとなると、万全の状態であっても厳しいとアイラは感じていた。
「ガアア!!」
「——ッ!」
アイラはすぐに逃げの選択を取った。
火を起こせるだけの薪を持って、逃走を図った。
が、すぐに囲まれてしまった。剣を持ち、撤退できるだけの隙を作りに出た。
「——千刃乱舞!!」
「ガ、ガア!?」
近くにいた三体に傷を与える。
三体はすこしうろたえたように後ずさったが、残った4体はアイラに爪を向けて飛び込んだ。
「——見切り斬り!!」
相手の動きを見切った攻撃であった。
「ガア!!」
「——っう……!?」
しかし、さすがのアイラと言えど、7体の動きを見切ることはできなかった。
わずかに背中に爪の斬撃が通ってしまったのだ。
「はっ、はっ……」
これ以上、戦闘はできないとアイラは判断し、全力で走った。
反撃を受けた故か、
洞窟に戻り、わずかに持ってきた薪で火を起こした。
「……痛てて」
背中に受けた傷は、思ったよりも厄介であった。
道中で薬草を見つけられなかったが故、治療ができずにいたのだ。
背中は傷んだが、アイラは強烈な眠気に襲われた。
空腹もあったが、食べるものもなく、体の疲労が先に出たようだった。
アイラはそのまま洞窟の中で、眠りについた。
「はぁ……はぁ……」
アイラは目が覚めると、強烈な寒気を感じていた。
高熱だ。
疲労がたたったのか、アイラの体はふらつくほど弱っていた。
だが、食べるものもなく、薪もすべて使ってしまった。
アイラはどうするべきか考えた。
このままここにいても、衰弱死するしかない。
かといって、薪や食料を取りに行けるほど、戦える体力もない。
なら……。
「近くに町がないか探すしかない……」
アイラは町が近くにないか、歩き出した。
「あそこに……人がいるかもしれない」
そこまで突発的に動けたのは、吹雪のなかった朝方、山を越えた空に、狼煙が見えたからだ。
それは、人がいる証拠でもあった。
その希望を頼りに、アイラはふらつく体を動かした。
だが、その道のりは険しかった。
山一つ迂回する必要があり、弱ったアイラに歩けるだけの体力はなかった。
「はぁ………………はぁ…………」
やがて、体が動かなくなり、限界を迎えた。
アイラはバタンッと倒れ、意識を失った。
もう、ここまでだ、とアイラは思った。
「…………あれ……?」
だが、次に目覚めたのは、暖かいベッドの中だった。
「ここ……は……?」
「……あ、嬢ちゃん、やっと目覚めたかい?」
そこには、見知らぬおばあさんがいた。
体を起こそうとすると、おばあさんが慌てて止めに入った。
「ちょっとちょっと! 動いちゃいかんよ? すぐに動ける状態じゃない。嬢ちゃん3日も眠っていたんだよ?」
「え? 私、そんなに眠ってたんですか?」
「ああ、見つけた時には傷だらけで、もう目覚めないと思ったんだけどねぇ……無事でよかったよ」
アイラは、死ぬ寸前のところで、通りかかったおばあさんに助けられた。
顔だけおばあさんの方へ向き、アイラは口を開いた。
「助けていただき……ありがとうございます。もうだめかと思ってました」
「いいよいいよ。嬢ちゃん熱もすごいし、しばらくここにいなさい」
「ありがとう……ございます」
アイラは、おばあさんの思いに深く感謝した。
その思いは、祖母を感じるような温かいものであり、故郷の人達を思い出すほど、アイラの心を癒した。
アイラはこんな人たちを守るために戦えるなら、本望だと、この時強く思った。
1週間ほどして。
アイラの体調は万全となった。
おばあさんの家の手伝いをいくつかして、恩をすこしでも返そうとした。
そんな中、おばあさんはアイラに尋ねた。
「ところで嬢ちゃんはどこから来たんだい? ここら辺の身なりじゃないし……」
「えっと……実は……」
アイラはここまでの経緯を話した。
勇者のパーティであること。
魔族によって飛ばされたこと。
「嬢ちゃん、勇者様のパーティメンバーかい?! こりゃすごいね、長生きしていればこんな出会いもあるもんだ」
「あはは、それでおばちゃん。ルインズ王国まで、どれくらいで着くかな?」
「ルインズ王国までだと……だぶん半年はかかるだろうね」
「は、半年!!?」
ルインズ王国から遠いとは思っていたが、その期間にアイラは唖然とした。
「ここらの道はあまり整備されてなくてね、隣町に行くのでさえ、1週間はかかるだろうね」
「1週間……」
「戻るかい?」
「……戻る。仲間が待ってるから」
それから、1日もしないうちに、アイラは旅立つ準備ができた。
「それじゃあ、お世話になりました!!」
「うん、気をつけて行っておいで」
おばあさんに見送られながら、アイラはルインズ王国を目指した。
最初は慣れない雪国であったが、2週間もすると直に適応していった。
そうして、半年の月日をかけて、ルインズ王国へ着いた。
仲間が待っている。
——そう思っていた。
「勇者ユウヤ……失踪?!」
だが、現実は残酷であった。
勇者が数週間前から行方不明となった報告であった。
勇者以外のメンバーもずっと行方不明となっており、アイラは王の城へ走った。
王はアイラを見ると、驚いたような表情をしたが、すぐに怪訝ような顔をした。
「誰だ?」
「誰って……勇者パーティの一人、アイラだよ! 行方不明とかになってるけどちゃんと帰ってきたの!」
「そうか、そうか。無事帰ってきてご苦労だった。で、何用か?」
「ユウヤくんはどこに行ったの?」
「おそらく、死んだのだろう」
王は、どうせならこのまま勇者パーティは全員死んだと報告するつもりだった。
帰還したことに驚いてはいたが、勇者だけは野垂れ死んでほしいと、嘘をついた。
「嘘……? どこに行ったかぐらい知らない?!」
「さあな。言いたいことは以上だな? 私は忙しいんだ。」
「え、ちょっとまって……!」
王は卑劣であった。
無慈悲にも、アイラは城からつまみ出された。
アイラは王の言動から虚偽の報告があると察した。
それゆえ、仲間が生きていると信じ、みんなを探すことを決意した。
町の軽い聞き込みから、勇者がルインズ王国近辺で捜索を続けているという情報を得た。すぐにでもルインズを後にしようと準備をしていた。
だが、その時、奇妙な噂を聞いた。
この町に、勇者がいるという噂だ。
だが、この噂は僅かな量であり、人によって言うことがまちまちで、勇者の生き別れや偽勇者と言った風に噂が流れていた。
気になったアイラはその噂を頼りに、噂の人を探した。
そして、ユウヤと瓜二つの人物、ソウヤと出会った。
あまりに似ていたため、人違いを起こした。
そして、パーティを組まないか提案した。
最初は人探しに助かると思った、そんな浅い考えだった。
1年の旅をした。
だが、ユウヤが見つからなかった。
いずれ、口に出すことも控え、アイラはソウヤと一緒に旅をすることにした。
どこかユウヤに似ているソウヤを、いつしかアイラは想うようになっていた。
そして、明日。その想いを告げるのは、叶わなくなる。
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