第12話「旧友」
「なんでしょう、この荒野?」
森に入ってから1時間程度。先ほどの鬱蒼としていた森とは一変、枯れ木の多い荒野に着いた。
「アイラ、こんな荒野、僕らが迷宮に行く時はなかったよね?」
「そうだね。たぶん自然発火の森林火災だよ」
森林火災か。
森では、枯れ葉同士の摩擦で火が起き、それが周囲の木々に燃え移って火災になることがあるらしい。
乾燥した地域によく見られるって聞いたことがあるけど、こんな風になるんだ。
「そんなに大きな火災になってないなら、すぐに森が見えてくるよ」
アイラの言う通り、少し進むと森が見え始めた。
どうやら一部分の火災だったようだ。
「……」
ふと、マホさんの方を見ると、神妙な顔で地面を見ていた。
「マホさん? どうかしました?」
「……いや、何でもない」
そう言って、荒野を超えた森に入った。
* * *
「アイラ、本当にこの方向で合ってる?」
「多分合ってる。……多分」
不安が胸に重くのしかかる。
一夜の野営を経て再び歩き出した僕らは、濃い森の中を延々と進んでいた。
空はすでに夕暮れ時。
遠くで雷鳴が鳴り響いている。
「先ほどの荒野を通った以降、落雷が酷いですね。雨が降らないといいですが」
「雨嫌い」
基本的に、道に迷った時は太陽の方角で帰還方向を判断するのがセオリーなのだが、荒野を通った以降、森には空すら見えないほど濃い霧がかかってしまった。
しかもこの森、あまりに進みにくい。
進行方向のいたるところに茨の道があり、避けるように遠回りをしても、深い草木が生い茂って進みにくい。
進む道を何度も変えたせいで、どこに向かっているのか、もはや見当もつかなくなっていた。
まるで意志を持って、僕たちをどこかに誘導しているようだった。
「うんざりするほどの木々ですね」
「……全部燃やしたら見え呟いた
「……森林火災を起こすつもりですか?」
「結構いい案だと思うけど……」とマホさんがぼそりと呟いた。
そんなわけないでしょう……。
アイラの歯切れの悪い返事からしても、彼女自身、どの方向に向かっているのかはっきりしていないのだろう。
僕らは暗闇に向かって手探りで歩いているようなものだった。
迷宮に行く際に入った森と全く別の雰囲気だ。
とにかく、この奇妙な森を抜け出せることを祈るしかない。
「……ん? なんか光ってない?」
アイラがそう言うと、続くように僕やマホさんが顔を上げる。
視界の先には、大きな炎が舞い上がっていた。
森林火災か?
いや、あれは——。
「人里だ!」
こんな森の中に人が住んでいるとは。
先端を尖らせた丸太で囲まれた集落があった。
「よかったー、あそこで道を教えてもらお。ついでに寝泊まりも」
川に流され、さらに半日も歩き続けて、僕たちはすっかり疲れ果てていた。
そろそろ野営でもしようかと思った矢先の光明だった。
そのまま入り口らしき場所まで行くと、門番らしき者がいた。
上半身は裸で、腰にモンスターの皮を巻いており、部族のような恰好だった。
「止まれ。お前たち、何者だ?」
「こんにちは。僕たち旅の者です。道に迷ってしまって……」
「迷子だと? ここがどこかわかっているのか?」
門番の男は眉をひそめて、僕たちを鋭く睨んでいた。
「偶然、この里を見つけたんです。道を教えてもらえればと思って……」
「冒険者が地図も持たずに迷うか? そんな初歩的なこともできないのか?」
「近くの迷宮でトラップにかかって、水路に落ちてしまったんです。そこから流されてしまい……地図も水で滲んでしまって」
「嘘だな。この近辺に迷宮は存在しない」
うそぉ。
まさかそんなに遠くまで流されていたのか?
だとしたら、今どこにいるのか、ますます分からない。
道だけでも尋ねようとした時、里の中から赤髪で長身の男がやってきた。
「おーい何してんだヤス。そろそろ交代の時間……ってなにしてんの?」
「怪しいものがいる」
「いやただの冒険者だろ……また迷い込んだ奴が来たのか」
そう言って僕らの方を向いて、その男は目を見開いた。
「おい、嬢ちゃん……もしかして、アイラか?」
「ん? ……え、キタン君?」
何ともアイラは人脈が広いらしい。
この男はアイラと面識があるようだ。
謎の赤髪男、キタンのおかげで、僕たちは彼の家に招かれることになった。
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