第9話「罠」
「そういえばマホさん、迷宮のマッピングは取っていますか?」
「取ってない」
「え、どうやって迷宮で迷わずいられたんですか?」
「……頑張った」
すごいなこの人、迷宮の中をマッピングなしで暮らしてたの? いや、外に出たらしいし、寝泊りはあの部屋でやってたのかもしれない。
「僕たちこの迷宮の調査依頼を受けてるのですが、この迷宮ってどんなモンスターが出るんですか?」
「D、C級ぐらいのモンスターしか出ない」
あってC級か、ならまだ何とかなりそうだ。
「モンスターはほとんど倒してきた。もういないと思う」
「……それ、冒険者だったらどうしてたんですか?」
「……灰になればどっちも同じ」
こわ。
とんでもないこと言ってるよ、この人。
「いや、近距離まで来たらわかるでしょう?」
「うん、殺されると思った。本気で戦った」
「いや、戦わないでください!? 本気で死ぬかと思いましたよ!?」
「ん、ごめん」
やべぇ人が仲間になったかもしれない……。
それ以降、迷宮ではほとんどモンスターに。
マホさんがほとんどやってしまったのかもしれない。
「あ、その先、トラップ」
「え……うわ、ほんとだ! 下にスイッチがある」
マホさんは迷宮のほとんどの罠を把握していた。
ほんとにずっとここにいたんだな。
「よく気づきましたね」
「うん、頑張って避けた」
ほんとにずっとここにいたんだな……。
まぁ、ある意味身をもって体験してる分、ちゃんと覚えているのだろう。
「この先、トラップみたいなのがある」
「……トラップみたいなの?」
え、なにですか、その含みのある言い方。
それはもうトラップで良くないですか?
見ると、複数のレバーが取り付けられた扉があった。
錠前のところにもなにやら細工がある。
「これは……お宝の匂い!!」
「お宝に匂いなんてしない」
「そうだよアイラ……」
「なに言ってるの! この感じはお宝が眠ってるに決まってるよ!」
僕とマホさんが呆れながら突っ込む。
「過去の要塞では、敵から侵入された時に備え、扉を開くのに時間のかかるパズルを作ったって聞いたことがあるの。だからこの奥にはきっとお宝があるんだよ!」
なるほど。そういう感じか。
ではアイラがパズルを解くまで待つか……。
10分後。
「お宝の匂いは……匂いはするに……」
「お宝に匂いなんてしない」
そこにはパズルに苦戦するアイラがいた。
「んーレバーを切り替える順番はあってるはずなのに……」
「……もしかして順番じゃなくて、同時に切り替えるんじゃない?」
「一人にこの数は無理……3人でってこと?」
要塞には複数でしか入れない扉があると聞いたことがある。
その類かもしれない。
「じゃあ同時に行くよ……せーの!」
カチッとレバーを切り替えた。
すると、扉の錠前が開く音がした。
「おっ開いた! みんな、早く入ろう! お宝が待ってる!」
アイラが目を輝かせながら扉を押している。
一緒に扉を開ける。
しかし、期待とは裏腹に部屋は拍子抜けするほど殺風景だった。
古びたカーペットが敷かれただけの、何の変哲もない空間が広がっている。
「……いや、奥の壁に何か書かれてる!!」
アイラが指差す先を見ると、壁に古い文字で何かが刻まれている。
僕は目を凝らして読み上げた。
「『落ちろ、侵入者め』……?」
……。
なんだろう、なにか嫌な予感がする。
「ヤバイ?」
マホさんが気の抜けた声で問いかけてくる。
まぁ、ヤバいでしょうよ。
僕は部屋の空気が重くなったのを感じた。
背筋に悪寒が走る。これは——
「みんな、すぐに逃げ——」
僕が叫んだ時にはもう遅かった。
「わああああああああああああああ!!!」
「ああああああああああああああ!!!」
暗闇の中を真っ逆さまに落下していく。
——ザブンッと、冷たい激流に叩きつけられ、一瞬で水の中に引きずり込まれた。
(真っ暗で何も見えない……!)
激流に翻弄され、どこが上でどこが下かも分からない。
肺の中の空気がどんどん失われていく。
だんだんと意識が薄れていく。
酸素が……足りない……。
みんな……。
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