赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました

@25BCHI

国家の価値はゼロから始まる

第1話 左遷先は、異世界

 東京・大手町。


「お引き取りを。ここはもう、あなたの会社ではありません」 


 無機質な声とともに、零は警備員に腕をつかまれた。

 その手を払いのける気力もなかった。 


 敵対的買収──TOB。

 一ヶ月前、上場企業である彼の会社は、外資と結託した旧経営陣に株を過半数握られ、乗っ取られた。

 守ってきたものは、あまりにも脆く崩れた。 


 資本は力だ。

 ルールを知っている者が、ルールの中で一番強い。

 

「皮肉だな。俺が一番それをわかってたはずなのに」

 

 夜の風が吹き抜ける。

 35階建ての屋上、無人の空に、零は立ち尽くしていた。


 失ったのは会社だけじゃない。

 育ててきた人間も、パートナーも、株主も──

 “信頼”さえも、数字の一行で消えていった。 


 目を閉じる。

 耳鳴りがやけに遠くなった。

 

 ──その瞬間、空気が“ねじれた”。

 

 光が逆流し、風景が崩れる。

 コンクリートが消え、重力が裏返り、音がしなくなる。 


「は……?」

 

 気づけば、そこは石造りの広間だった。

 

 そして、金の髪をした少女が、神妙な顔で彼を見つめていた。 


「異界より来たりし御方よ。我が国を、お救いください」

 

 加賀谷零、二十八歳。

 天才と呼ばれ、すべてを失い、そして今──異世界に立っていた。

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