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「ここしばらく、陽介ずっと何か悩んでいたでしょう。あれ、やっぱり藍ちゃんの事なんだね。私には、何もできなかった。陽介も、何も話してくれなかった。でも、藍ちゃんは陽介を笑顔にすることができるんだよね。……私じゃだめなんだよね」
「でも、お前だって……」
言いかけた諒に、皐月は小さく首を振った。
「いいの。もう、わかってるし。ここで私も好きでした、なんて言ったら、陽介のことだもの、きっとすごく悩んじゃうでしょ。私、陽介の彼女じゃないけど、陽介の一番仲のいい女友達には違いないもの。うぬぼれじゃなくてそう思ってる」
「うん。それは、その通りだと思う」
「それなのに告白なんてしちゃったら、陽介は私に気を使って今まで通りに話すことなんてできなくなるんだろうなって……前からそれはわかっていたけど、もしかしたら、って希望も捨てきれなかったの。好きだって言ったら、実は俺も、って言ってくれるかもって……でも、さすがにあんな顔みせられちゃったらね」
寂しそうに言った皐月を、諒は何も言えずに見つめる。
「だからね、私の、この想いは秘密にしておく。そして、もしいつか、陽介も私も別々の相手とお互い幸せに笑っていられる時が来たら、その時は、あの頃私も好きだったんだよ、って言えるような気がする」
そう言った皐月は、微かだけれど笑んでいるように見えた。
「強がってるって、自覚はあるわ。それでも、私、陽介には笑っていてほしい。幸せでいて欲しいの。きっと今頃、陽介、笑ってる。それだけで、私は」
つい、と皐月の瞳が揺れた。静かな涙がその頬を伝っていく。
「あ、あれ? 大丈夫、って、思ったのに……」
あわてて皐月はココアをテーブルに置いてハンカチを探す。その間も流れ落ちる涙は、堰を切ったように止まらない。
「ごめん、諒。私、こんなつもりじゃ……!」
言いかけた皐月の頭を、少しだけ乱暴に諒が引き寄せた。
「そんな顔、人には見せられないだろ?」
諒は、皐月の顔を自分の肩におしつけて言った。
「貸してやれるハンカチもないからさ、仕方ない、俺でふいとけ」
「諒……」
「泣いていいよ。俺たち、友達だろ? こんな時くらい、どんどん弱音はいていけよ」
戸惑うような気配の後、皐月がぼそりと言った。
「それで、一緒に泣いてくれるんでしょ?」
「おう。今の俺は号泣しているからひどい顔だぞ。見んなよ」
ふふと笑った後、くたりと体から力の抜けた皐月が静かに嗚咽を始めた。
(そうだなよな。惚れた男と友達と……両方いっぺんに無くすのは辛すぎるよな)
だから、自分の気持ちは胸にしまっておく。今は。
諒は、泣き続ける皐月の背に置こうとした手を、ぎゅ、と拳に握って、そのまま静かに下ろした。
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