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「なんなんだよ、あいつ」
言いながら、陽介は少しだけ笑みを見せた。それを見ていた諒は低い声で聞く。
「陽介、やっぱり、藍ちゃんと仲直りしたいんだ」
「そりゃ、もちろん」
「……このまま、藍ちゃんのことは忘れて……」
小声になった諒の声は、陽介には届かない。陽介が振り向く。
「諒?」
「いや、なんでもない」
そう言って、諒は笑った。
「今、一発殴っていいか?」
「なんでだよ!」
☆
それから日程通りに行程を回ってホテルへと入り、初日は滞りなく終わった。
「あ、宇津木」
それぞれの部屋に入ろうとしていると、陽介は担任の高木に声をかけられた。
「はい」
「明日の天体観測な、ちょいと俺の都合が悪くなった」
「え」
流星群の観測の引率を、顧問の代わりに高木がしてくれることになっていたのだ。
「そうですか……」
(残念だけど、中止かあ)
「うん、だからな。代わりに引率を木暮先生に頼んでおいた」
「げ」
木暮も養護教員として修学旅行に同行していた。
「お前、保健委員だから木暮先生は知っているだろう。よく頼んでおいたから、夕食のあとで直接打ち合わせに行って来い」
「はい……」
少し気の重い陽介であった。
藍が陽介を避けていることを、木暮は知っているだろうか。もし知っているとしたら、理由いかんによっては嫌味の一つや二つや十くらい言われるかもしれない。
「陽介、行くぞー」
同じ部屋の諒に呼ばれ、疲れただけではない重い足取りで陽介は荷物を持ち上げた。
☆
コンコン。
「木暮先生、いらっしゃいますか」
食事の後、意を決して陽介は木暮の部屋のドアを叩いた。だが、なかなか中からの応答がない。
(いないのかな?)
出直そうかと思った瞬間、勢いよくドアが開いた。
「あ……」
ドアを開けたのは、藍だった。
口元をきゅっと結んで、一度は合わせた目をすぐにうつむいてそらしてしまう。
「藍、あの……」
「失礼します!」
陽介の呼びかけを振り払うように、藍は飛び出して行ってしまった。
「ちょっ……藍!」
「何か用かね」
追いかけようとした陽介を、木暮が室内から呼んだ。それを無視することもできず、後ろ髪を引かれる思いで陽介は室内に入った。
藍は、陽介の呼びかけにも立ち止まらなかった。今までで一番の拒絶を受けて、陽介はさすがに追いかけるのを躊躇する。たとえ木暮に止められていなかったとしても、今の藍を追うことはできなかっただろう。
陽介はため息をつくと、ファイルを持ち直した。
「はい、明日の天体観測の件で先生とお話を」
「ああ、高木先生に言われた件だな」
「はい。あの、藍はどうしてここに……」
一抹の不安が頭をよぎる。また、具合でも悪くなったのだろうか。
「たいしたことではない」
「また倒れたんですか?」
「そうではない」
木暮の態度はそっけないが、ある意味それもいつも通りだ。
藍も、あれだけ勢いよく飛び出していったのだから、少なくとも体調は問題ないのだろうと陽介は今は藍の事を考えないようにする。
そうして陽介は、木暮と打ち合わせを始めた。
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