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 陽介が部室に入ると、皐月の他に1年生が二人いた。

 部室を使うためにクラブの活動日を設定はしてあるが、普段は全体としての予定はない。各々、本を見たり時期の天体イベントを調べたりしている。

 一時期は、昨年の文化祭で陽介が提案して作ったプラネタリウムを見にくる生徒がよくいたが、最近は少なくなっていた。

 星に興味のある生徒がいつでも天体の資料に触れられるように、陽介は活動日には必ず部室にいるようにしていた。


 先に部室にいた1年の二人は、確か剣道部との掛け持ちをしている二人で、今日は剣道部の活動がないのか、二人で本を読みながらのんびりと菓子を食べていた。

 天文部の活動がない時は、そんな風に時間つぶしの場所として使われることが多い。

 ちなみに、1年生は5人、2年生は2人。3年生が引退してしまった今は総勢7人の弱小クラブだ。


 陽介に気づいた皐月が、立ち上がった。

「陽介、今日は何かするの?」

「こないだの観察結果を置きに来ただけ。かなり大きな火球が見られたから」

 星の観察をしたときは、天候や雲の様子などを記録しておくことにしている。こうしてまとめた観測結果を、文化祭の時に展示発表することになる。

「ふーん。……あ、そういえば、陽介って藍ちゃんと仲いいの?」

 さりげなく聞こえるように注意深く言って、皐月はファイルを取り出している陽介の横に座った。


「藍? 別に仲いいってわけじゃないけど。皐月、知り合い? ああ、そっか。去年同じクラスだったっけ」

 1年の時は諒と皐月は同じクラスだったことを、陽介は思い出した。

「そんなとこ。……さっき、藍ちゃんを追いかけていったでしょ? 確か委員会が一緒だったよね。なにか連絡でもあった?」

 陽介の様子をうかがっていた皐月は、二人がなにやら仲よさそうに話しているのを見て怪訝に思った。他の女子ならそれほど気にもしないが、話していたのがよりにもよってあの木ノ芽藍だ。

 彼女のひとなつこさに裏表がないことを、皐月はよく知っている。けれどそれとはまた別に、陽介が彼女に対してどういう思いを抱くかということが、とても気になる。

 陽介はそんな皐月の様子にはまったく気づかない。


「いや。天文部に誘ったんだ。星に興味ありそうだったから」

「藍ちゃんが星好きだなんて知らなかった。どこでそんなこと聞いたの?」

「んー……ちょっとね」

 なんとなく説明しづらくて、陽介はあいまいに答えると持ってきた星図表をファイルにしまった。 

 陽介がそれ以上話す気がなさそうだと見て、皐月はそれ以上の追及をあきらめた。あまりしつこく聞いて、逆になぜ気になるのかと問われても困る。

「今日も行くの?」

「ああ。雲が出ないといいんだけどなあ」

「ここ最近はずいぶん頻繁に観測に出てるのね。なにか気にかかるイベントでもあるの?」

 皐月に聞かれて、あらためて陽介は自分がほぼ毎日あの公園に行っていることに気づいた。


「そうでもないけど」

「あ、わかった。望遠鏡買ったからでしょ? ねえ、私にも見せてよ。一緒にいってもいい?」

 皐月が陽介の肩にもたれるようにのしかかる。陽介はファイルを眺めながら言った。


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