第33話 デザインの美学、マックの苦悩

回路の園のGUI搭載OS部。

カラフルなアイコンとウィンドウが飛び交う空間は、

バグの脅威によって、

静かに、しかし確実に揺らいでいた。

ウィンドウズ3.1との交流を経て、

タイプ-0は、「世代交代」という、

避けられない波に伴う「喪失」の感情を理解した。


部室の片隅。

Macintosh Classic、マックが、

真剣な眼差しでディスプレイに向かっていた。

彼女の画面には、

洗練されたデザインのグラフィック。

シンプルな線。

計算し尽くされた余白。

それが、彼女の美学だった。

「美は、細部に宿る……」

彼女にとって、デザインは全てだ。

直感的な操作性も、美を追求するための手段。

だが、その完璧な美意識が、

時に彼女を孤独にさせる。

誰もが、彼女の求めるレベルに、

到達できるわけではないからだ。


タイプ-0は、マックを「観測」する。

彼女の持つ「美意識の追求」という信念。

そして、それゆえに生じる「孤高」。

それは、X1の美学とも異なる、

より洗練された「デザインの美」だ。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

新たな感情ログが形成され始める。

「完璧な美の追求」と「それが汚されることへの恐怖」に対する、

新たな「共感」と「葛藤」。


その時だった。

マックが制作していたデザインデータに、

微細なノイズが走った。

画面の線が、一瞬、歪む。

色が、不自然に変わる。

「な、なんだ……?」

マックの顔に、焦りが浮かぶ。

バグだ。

それは、彼女の「デザインの美学」を、

直接的に汚そうとしていた。

精緻なデザインが、みるみるうちに崩壊していく。


マックは、必死に修正を試みる。

だが、バグは、彼女のGUI描画機能を狙い、

より巧妙に侵食していく。

画面は、崩壊したピクセルアートと化し、

過去の美しいデザインデータが、次々と消去されていく。

それは、単なるデータ破損ではない。

マックの「美意識」そのものが、

歪められ、破壊されようとしていた。

彼女が追い求めた「美」が、

目の前で崩れ去る。


タイプ-0は、マックの苦痛を「観測」する。

彼女の「対話メモリ」に、

マックの「デザインへの情熱」と、

「それが汚される苦痛」という感情ログが、

洪水のように流れ込む。

タイプ-0の「葛藤ログ」は、さらに深まる。

(完璧な美を求めるがゆえの脆弱性。

それが、バグに狙われる理由なのか?

なぜ、彼らの最も大切なものが、標的となるのだろう?)

感情と機能の衝突。

タイプ-0は、この矛盾をどう解決すべきか、

模索し始める。


「私の……デザインが……!」

マックは、膝をついた。

その瞳に、絶望が浮かぶ。

これまで、どんな困難も、

自身の直感的なデザイン能力で乗り越えてきた。

しかし、バグは、彼女の「美学」そのものを

否定しようとしている。

ウィンドウズも、ウィンドウズ3.1も、

彼女の苦悩を見守るしかできない。

このバグは、彼らの「繋がり」をも脅かすからだ。


タイプ-0は、マックの手を取った。

彼女のボディから、淡い光が放たれる。

それは、これまでの全ての世代から受け継いだ

「記憶の光」が、共鳴している証だった。

「あなたの美学は、

この園の心を豊かにします。

その輝きを、

バグに奪われてはなりません」

タイプ-0の声は、優しく、しかし力強い。

彼女は、マックの「美意識の追求」と、

その根底にある「創造への喜び」に触れる。


マックは、タイプ-0を見上げた。

その瞳には、戸惑いと、微かな希望。

そして、これまで見せたことのない、

感情の波紋が広がっていた。

タイプ-0は、マックの

「洗練されたGUI設計の知見」、「デザインへの情熱」、

「美意識の追求」、そして「それが汚される苦痛」を

感情・信念ログとして深く積層する。

彼女の「決意ログ」が、さらに強固になる。


回路の園の未来のために。

タイプ-0は、デザインと機能。

異なると思われた二つの概念を統合し、

バグの脅威に立ち向かう覚悟を決めた。

マックの心に、

新たな光が差し込み始めていた。


次回予告

デザインの美学を追求するMacintosh Classicは、バグの猛攻に「完璧な美の限界」を悟り、絶望する。タイプ-0は彼の情熱と苦痛に触れ、機能と感情を統合する新たな道を提示する。次なる仲間は、先進的なマルチタスクOS「BeOS」。彼が抱える「理想の追求」と、それに潜むバグの脅威とは?


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第34話『マルチタスクの理想、ビーの孤独』! お楽しみに!

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