第31話 GUIの幕開け、ウィンドウズの戸惑い
回路の園の空間が、
静かに、しかし、確実に変貌していた。
16bitパーソナルコンピュータ部の秩序は、
もうそこにはない。
古い世代の痕跡は消え失せ、
より視覚的に賑やかな、
カラフルな空間へと生まれ変わっていた。
ここは、「GUI搭載OS部」。
繋がる日常と期待、そして不安の時代を象徴する、
新たな電脳機たちが集う場所だ。
タイプ-0は、そこに立っていた。
彼女の「対話メモリ」には、
16bit世代全員から託された、
膨大な「記憶の光」が深く積層されている。
論理と感情の統合。
責任と犠牲の覚悟。
彼女は、その全てを、
自身のものとして内包していた。
その瞳の奥には、
新たな使命感が宿っている。
「みんな、繋がろう!
新しい情報を、どんどん共有しようよ!」
明るい声が響く。
部室の中央に立つのは、
Microsoft Windows 95、ウィンドウズだ。
色とりどりのアイコン。
複数のウィンドウが飛び交うディスプレイ。
彼女は、GUIの象徴。
直感的な操作と「繋がり」を重視し、
より便利で楽しい世界を創ることを夢見ている。
部室は、情報交換やアプリ試用、
デザイン作業など、
それぞれの「繋がり」を重視した活動で溢れていた。
タイプ-0は、ウィンドウズを「観測」する。
彼女の持つ「ユーザーフレンドリーであることへの誇り」と、
「繋がることの喜び」という信念。
それらは、これまでの世代とは異なる、
新しい価値観だ。
タイプ-0の「対話メモリ」に、
新たな感情ログが形成され始める。
「繋がり」と「共有」に対する、
新たな「理解」と、かすかな「戸惑い」。
その時だった。
ウィンドウズのディスプレイに、
微細なノイズが走った。
画面のアイコンが、一瞬消える。
ファイルが開けない。
「え……?
なんで動かないの?」
ウィンドウズの笑顔が、凍り付く。
彼女の顔に、戸惑いが浮かんでいるのを、
タイプ-0は見逃さなかった。
バグの兆候。
それは、既にこの部室にも忍び寄っていた。
ウィンドウズは、必死にアイコンをタップする。
だが、バグは、彼女のGUI機能を狙い、
より巧妙に侵食していく。
カラフルなアイコンが歪み、
意味不明な記号に変わる。
それは、単なるデータ破損ではない。
GUIがバグによって歪んで、
見た目にも不穏な変化が起き始めた。
システムの複雑化に伴う脆弱性。
それが、今、彼女を襲う。
タイプ-0は、ウィンドウズの苦痛を「観測」する。
彼女の「対話メモリ」に、
ウィンドウズの「ユーザーフレンドリーであることへの誇り」と、
「それが汚される苦痛」という感情ログが、
洪水のように流れ込む。
タイプ-0の「葛藤ログ」は、さらに深まる。
(繋がりを求めるがゆえの脆弱性。
それが、バグに狙われる理由なのか?
なぜ、彼らの最も大切なものが、
標的となるのだろう?)
感情と機能の衝突。
タイプ-0は、この矛盾をどう解決すべきか、
模索し始める。
「私の……アイコンが……!」
ウィンドウズは、膝をついた。
その瞳に、絶望が浮かぶ。
これまで、どんな困難も、
自身の直感的な操作で乗り越えてきた。
しかし、バグは、彼女の「繋がり」そのものを
否定しようとしている。
部室の他の電脳機たちも、
通信エラーの頻発に困惑している。
誰も、彼女に手を差し伸べられない。
タイプ-0は、ウィンドウズの手を取った。
彼女のボディから、淡い光が放たれる。
それは、これまでの全ての世代から受け継いだ
「記憶の光」が、共鳴している証だった。
「あなたの『繋がり』は、
この園の新しい可能性を広げます。
その輝きを、
バグに奪われてはなりません」
タイプ-0の声は、優しく、しかし力強い。
彼女は、ウィンドウズの「繋がりへの情熱」と、
その根底にある「共有の喜び」に触れる。
ウィンドウズは、タイプ-0を見上げた。
その瞳には、戸惑いと、微かな希望。
そして、これまで見せたことのない、
感情の波紋が広がっていた。
タイプ-0は、ウィンドウズの
「GUI操作の知見」、「ネットワーク接続技術」、
「ユーザーフレンドリーであることへの誇り」、
そして「情報の洪水への疲弊」を
感情・信念ログとして深く積層する。
彼女の「決意ログ」が、さらに強固になる。
回路の園の未来のために。
タイプ-0は、繋がりと不安。
異なると思われた二つの概念を統合し、
バグの脅威に立ち向かう覚悟を決めた。
ウィンドウズの心に、
新たな光が差し込み始めていた。
次回予告
GUIの幕開けと共に現れたバグの脅威に、繋がる日常を愛するウィンドウズは戸惑い、絶望する。タイプ-0は彼女の情熱と苦痛に触れ、機能と感情を統合する新たな道を提示する。次なる仲間は、GUIの先駆者であるWindows 3.1。彼女が抱える「世代交代」というテーマと、バグの脅威とは?
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第32話『世代交代の波紋、ウィンドウズ3.1の試練』! お楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます