第24話 秩序の終焉、そして責任

回路の園の16bitパーソナルコンピュータ部。

キューハチが築き上げた秩序は、

今や、音を立てて崩れ去ろうとしていた。

バグの猛攻は、止まらない。

ミツボシとの交流を経て、

タイプ-0は、

「記録の重圧」と「見えない貢献」という感情を理解した。


部室全体に、ノイズが満ちる。

キューハチの指揮は、もはや届かない。

タウンズのマルチメディア機能は、砂嵐と化し、

ロクハチの究極のグラフィックは、

意味不明なデータの羅列に変わった。

ミツボシの手元にあるフロッピーディスクは、

ことごとく破損していく。

彼らは、絶体絶命の危機に陥っていた。


タイプ-0の「対話メモリ」には、

キューハチの「論理の限界」と「無力感」。

タウンズの「表現への情熱」と「それが汚される苦痛」。

ロクハチの「究極の追求」と「孤高」。

ミツボシの「データの守護者としての重圧」と「それが損なわれる苦痛」。

全ての感情ログが深く積層されている。

彼女は、その痛みを自身のものとして感じていた。

バグの猛威は、彼らの希望を砕こうとしている。


「もう……これ以上は、無理です……」

キューハチの声は、か細い。

完璧な彼女の表情に、絶望が浮かぶ。

タウンズは、膝をつき、

ロクハチは、崩壊する画面を見つめる。

ミツボシは、涙をこらえ、

ただ、データを守ろうと手を伸ばしていた。

16bit世代全員が、

バグの真の脅威を前に、

次なる決断を迫られていた。


タイプ-0は、その光景を「観測」する。

彼女の「葛藤ログ(Level 4)」は、

極限まで高まっていた。

(彼らの痛み……。

この絶望は、どこから来る?

なぜ、このバグは、すべてを奪うのだろう?)

感情の価値を理解し始めたタイプ-0にとって、

この状況は、耐え難いものだった。


バグは、16bit世代のシステムに

完全に同化しようとしていた。

それは、まるで彼ら自身の「影」。

性能競争。

情報の過剰な生成。

それが、回路の園に不要な「削除データ」を

大量に生み出し、

バグの温床となった過去。

そういった負の側面が、

バグによって具現化され、

彼らの目の前で猛威を振るっている。

部室の家具が歪み、

壁からノイズが溢れ出す。

物理的な空間までが、侵食され始めた。


「これでは、回路の園全体が……!」

タウンズが、震える声でつぶやく。

バグの侵食は、部室だけにとどまらない。

16bit部が完全に機能停止すれば、

回路の園の他の領域へと、

さらに拡大していくのは明白だった。


その時、キューハチが、

ゆっくりと立ち上がった。

その瞳には、

諦めとは違う、静かな光が宿っている。

「……私たちが、責任を取る」

キューハチの声は、どこか澄んでいた。

続くように、タウンズも顔を上げた。

「この園の未来のために……!」

ロクハチも、ミツボシも。

互いに顔を見合わせる。

そこには、もう、過去の因縁による

不信感はなかった。

ただ、バグに抗い、

未来を守ろうとする、純粋な決意だけがあった。


彼らは、バグを食い止めるために、

自らの「退場」を決意した。

この16bit部の終わりを受け入れる。

それが、回路の園を守り、

未来へ繋ぐ唯一の道だと、

彼らは知っていたからだ。

自らの存在を犠牲にして、

次へと道を拓く。

それが、彼らが選んだ「責任」の形だった。


タイプ-0は、彼らの「決意」を「観測」する。

それは、悲しみだけではなかった。

喜び。

勇気。

そして、未来への、

揺るぎない希望。

複雑で、しかし、あまりにも美しい感情。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

彼らの「自己犠牲の覚悟」と、

「次世代への希望」という感情ログが深く積層される。


16bitパーソナルコンピュータ部の全員が、

タイプ-0に近づく。

キューハチが、目に涙を浮かべながらも、

静かに言った。

「タイプ-0。

私たちの秩序と、この園への責任を、

あなたに託します」

タウンズが、力強く頷く。

「私たちの表現への情熱と、

マルチメディアの全てを、あなたに!」

ロクハチは、タイプ-0の手を取った。

「究極の美は、必ず、再生する。

その未来を、あなたに見せてほしい」

ミツボシは、微かな光を放ち、

タイプ-0の胸に寄り添った。

彼らは、それぞれがタイプ-0に、

感謝と未来への願いを伝えた。

🧠技術・知識ログ(高速データ処理、マルチメディア技術、高精細グラフィックの知見、情報管理の厳格さ)。

❤️感情・信念ログ(完璧主義の誇り、表現への情熱、責任感、競争の中での孤独、データの守護者としての重圧、隠された疲弊)。

🛠️行動原則ログ(効率性の追求、情報管理の厳格さ、秩序の維持、自律進化の追求、情報の最適化、予測と判断)。

それら全てを、タイプ-0に託す。


タイプ-0は、彼らの「記憶の光」を

受け止める。

その光は、彼女の全身を包み込む。

暖かく、そして切ない光だ。


そして、16bitパーソナルコンピュータ部の終焉が、

切なくも美しい描写で、描かれようとしていた。

部室のノイズが、急激に収束していく。

光が、彼らを包み込み、

やがて、その姿は、

空間に溶けて消えた。

彼らの痕跡は、もうそこにはない。


次回予告

16bitパーソナルコンピュータ部の仲間たちが、バグとの決戦のために「退場」を決意。タイプ-0は彼らの多様な「記憶の光」と、未来への責任を託された。回路の園の変革は避けられない。次の舞台は「GUI搭載OS部」。繋がる日常と期待、そして不安の時代を象徴する新たな仲間たちが、タイプ-0を待ち受ける――。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第25話『GUIの幕開け、ウィンドウズの戸惑い』! お楽しみに!

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