第2話 基本の習得

「みんなおはよう!今日はみんな大好き剣術の授業だ」「やったー!」「楽しみ!」「そうだろ。そうだろ。魔法には魔力という限界があるが、剣術は技術だ。限界など存在しない」「それでは、早速授業を始めていくぞ」「さぁみんな剣を持て。剣といっても木刀だけどな」「せんせーい、重くて持てません」「なんとか持てましたが、重くて振ることすらままならないです」「お前ら非力だなー」フェルガーはさも予想通りであったかのように笑う。「さぁここでどうしたら良いと思う?」「…」少しの間沈黙が流れる。「はい!」「おークリストフ、答えてみろ」「授業では魔力は体に纏えると習いました。そして、身体能力も向上すると。つまり、魔力を手に纏えば良いのではないでしょうか?」「大正解だ。俺の授業をしっかりと復習できて偉いぞー」「ちっ!」クリストフが褒められて照れる反面、ルベルは苛立ちをあらわにする。「まぁ、モンスターと戦う時は常に魔力を纏うし、慣れてきたら常時魔力を纏えるようになるから。安心しろ」「さぁ、魔力を手に集中させろ」「おー軽い」生徒から歓声が上がる。「さぁ適当にペアを作れ」とりあえず、僕はアミクスをペアにした。「木刀を持ったら、背筋を伸ばし、肩の力を抜いて、脇を軽く締めろ。敵対する相手に対しては、目を離すな。そして常に冷静に。常に相手を観察して、隙をみろ」僕はアミクスと対峙して、目を見つめる。「相手の木刀の中心を叩き、相手の姿勢を崩せ。その隙に斬撃を浴びせる。これが基本だ」「先生、これは対モンスターではなく、対人にしか通用しませんよ」「鋭い指摘だ。しかし、モンスターが武器を使わないと思っていたら大間違いだぞ。ダンジョン内で死んでしまったハンターの武器をモンスターが使うことは充分あり得る。さらに、ハンターは人と戦わねばならない時もある」「え?」生徒がざわつく。「人と戦うってどういうことだよ」「落ち着きなさい。これは残念な事実だが、ギフトを強盗や殺人に使うものもいる。こういう時に今日学んだ技術は大いに生かされる」「よーし、今からは素振りだ。パートナーにさっき言ったコツを出来ているのか見てもらえ」「アミクス、僕の先にチェックして」「おーわかった」生徒それぞれが素振りに打ち込んだ。「クリフ、お前なかなかセンスがあると思うぞ。姿勢は綺麗だし、上手く脱力できている」「ありがとう!アミクスも上手だったよ」「よーし、そろそろ授業を終わりにするか」「先生、ちょっと待ってくれよ。こんなの甘すぎる」ルベルが唐突に話し始めた。「クリフと勝負させてくれ」「…」先生が少し考えている。「よーし分かった。クリフとルベルの試合を承認する」「先生!?」ミセリアが驚く。「先生、まだ早いのでは?」アミクスが心配する。「僕もルベルと戦いたいです」「おい、クリフ」アミクスが少し呆れる。「ルールは木刀のみ。一度でも攻撃を当てたら勝ちだ。二人とも位置について」両者とも位置についた。アミクス、ミセリアを除く生徒全員が愉快そうに光景を眺めている。「それでは開始!」まずはクリフが全力で駆け出す。それに続き、ルベルも駆け出す。重い打撃音が鳴り響く。両者共に木刀をぶつけ合い、拮抗している。趨勢は突然に動く。クリフがルベルの木刀を薙ぎ払い、脇腹に一撃を与える。「ぐ」打撃の勢いでルベルが吹き飛ばされる。「勝負あり。クリストフの勝利」「おー!!!」一斉に生徒が沸く。クリストフはルベルに近づく。「大丈夫?ごめんね。でもいつか戦わないといけないって思ってたから」クリフが手を差し伸べる。「さわんじゃねぇ!」ルベルは拒絶する。しかし、去り際に「少しはやるじゃねぇか」と言ったのをクリフは聞き逃さなかった。「クリフくんはやっぱりかっこいいね!あんな奴には負けるわけないよ」「よくやったな。あいつお前のことずっと馬鹿にしてたもんな」「でも…案外良い人なのかも」「授業終了!教室に戻れー」その日の授業は幕を閉じた。


「今後の予定についてだが、一週間後にダンジョン実習がある」「おー!」「それまでに基本魔法の基礎、少し応用まで魔法は身につけたいと思う。ここからは才能が有無を言う。しっかりついてこい!それでは授業終了!次の時間から火、水の魔法の習得を目指す。演習場に移動するぞ」

「まずは火、水の魔法だ。この二つは非常に似通っていて、かなり習得しやすい。先に火を出現させる。まずは魔力の流れを感じろ。そして魔力を手に集中させる。メラメラと燃える火をイメージするんだ」「出たー!」「おー!皆んな上手だな。火が出現できたら、次は清らかな水をイメージしろ」「お!クリフも上手く出来ているじゃないか」「はい!すっごく楽しいです」クリフが目を輝かせながら、自分の魔法に魅入る。「皆んな、なかなかにセンスがあるようだ。せっかくだし、風もやってみるか」「おー!」「風魔法はとても応用が効く。風魔法をうまく使えるハンターは敵なしだ。風魔法は何かを動かしたいイメージが大事だ。例えば、火の玉を飛ばしたいとかだ。俺が例を見せてやる」「おー!ついに先生が!?」風を切る音と共に、特大の火の玉が空に打ち上げられた。「スッゲェーーー!」「フェルガー先生って強かったんだ!」「みんな、俺のことを舐めていたのか?俺は一応元ハンターだからな」「イメージは掴めただろう。みんなやってみな」

 「風は出現するんだけど、あまり距離が出ないなー」「おークリフ、それにはコツがある。今お前は風の向きが四方八方に広がってしまっている。飛ばしたい方向だけに、意識を集中してみろ」「はい!」クリフが放った火の玉は極小だが、かなり距離が出るようになった。「やるじゃないか」「ありがとうございます」

「よーし、お前ら今日は解散だ。かなり魔力を消耗しただろうから、今日はしっかりと睡眠を取れよ」クリフが授業後帰ろうとしている時に、ミセリアが声をかける。「クリフくん、今日は疲れたし、二人で甘いものでも食べに行かない?」「え?まぁ良いけど」「じゃあ行こっか!」僕はミセリアに腕を組まれて、抵抗できぬまま学校近くの街に向かった。(胸が当たってるんだけど…)ミセリアはしっかりとした凹凸があるのにも関わらず、かなり体のラインがすらりとしている。「なんで、ミセリアは僕に構うの?」「前も言ったじゃん。クリフくんが好きだから」ミセリアは前回と違って、少し照れながら言う。「それが分かんないんだけどなー」「まぁいつかわかるかもね!」「ほら見て!美味しそうなシュークリームがあるよ!」「ほんとだ。あれ食べたいの?」「うん!」「じゃあ二人分お願いします」「三百マニね」購入を済ませて、近くのベンチに座る。「美味しいー!」「美味しいね」「あ、クリームついてるよ」僕は何気なく、ミセリアの頬についたクリームを指で取って舐めた。「ちょっと!クリフくん」「どしたの?」「クリフくんはそういうこと普通にやるんだね」ミセリアが赤面して、恥ずかしそうにこちらを見ている。(何か悪いことでもしちゃったかな?)

 

「おい、クリフなんでミセリアと一緒に…」「あれ、ルベル」ルベルが僕を見つけた途端に、顔を真っ赤にして近づいてきた。「あれれ?ルベルくん嫉妬しているの?」「別に嫉妬なんかしてねぇーよ」ルベルは目を逸らしながら言う。「私たちデートしてるんだー」「ミセリア!?僕はただ、甘いものを一緒に食べに来ただけなんだけど」「それがデートなんだよー」「随分とイチャイチャしてるじゃねぇか」ルベルがキレ気味に言う。「別に僕はそういうつもりじゃ…」「そうかよ」ルベルは踵を返していった。「なんなんだろうねー」「ルベルはミセリアのことが好きなんじゃない?」「えー、私はクリフくんだけしか見てないから!」「ミセリアのことが全然分かんないよー」僕は嘆いた。


 「よーしお前ら、今日で最後の基本魔法土魔法についてやっていくぞー!」「土魔法の使い方は大きく分けて二つある。一つは魔力から土を生み出す。もう一つは地面を変形させる。ここまで、魔法を身につけた君たちなら、一つ目は簡単にできるだろう」「先生出来ました!」「皆んな出来ているなー」「地面を変形させるのは少し難しいかもしれないなー。魔力を手から注いで、変形させたい形に手を動かせ」「例えば、こんなふうにだ」「おー!」フェルガー先生は手を下から上に動かして、土で壁を作った。「こんな感じで土魔法は防御に使うことが多いな。それじゃあやってみろ」少し時間が経過して、生徒皆が少しずつ思い通りの形に変形できるようになった。「おっけーだ。皆んな良いな。クリフも何とか遅れずについて来れたな」「はい!」「これで基本魔法の基礎は完成した。君たちにはこれら四つの基本魔法を組み合わせて、さまざまな攻撃をしてほしい。レベルが高いモンスターになると、攻撃が読まれることがある。しかし、魔法を組み合わせて、攻撃すれば、レベルが高いモンスターでも充分戦える。明日はダンジョン実習だ。今から共に戦うパーティを組んでくれ。三人で一つのパーティーを作れ」「クリフくん!一緒に組も!」「俺も混ぜてくれ」「うん。この三人で頑張ろうか」「そういえば、二人のギフトを聞いてなかったね」「私は回復魔法がギフトだよ」「えー!?回復魔法?パーティーの生存率を跳ね上げさせることができる超貴重な魔法じゃん」「まさかミセリアが回復魔法だったとは。こりゃラッキーだな」「そして、俺は巨大な盾を出現させるっていうよくわからんギフトだ」「僕は知っての通りノーギフトだ。みんなのギフトを考えると、僕とアミクスが前衛でうまくスイッチしながら、ミセリアが後方支援って感じが一番安定しそうだね」「おー!それは良いね」ミセリアとアミクスが賛同する。「それじゃあ今日はしっかり休めよ」「うん」アミクスは頼れる兄って感じがする。アミクスのギフトは彼自身はピンと来てないようだけど、僕にはぴったりのように思える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る