duo

 午前七時。


 国営放送に合わせていたFMから、ニュースが流れている。


『……関東圏内で起きている連続殺人事件について、合同捜査本部を設置し……』


 ──いつまで寝てる気だろう、私。


 ハンガーの制服を睨んだ。


 ◆◆◆◆

 

「彩!? ちょっ……」

 

 制服の私を見て、母が狼狽する。

 

「もう、いいのか?」

 

 父は対称的に悠然とテレビを観ている。

 

「……もう二週間だよ? いつまでも引きこもってらんない」

 

 乱暴にチョコペーストを塗り、トーストを囓る。


「……連続殺人なの?」


 リビングが凍る。


「お前が気にしてどうする、警察の仕事だ」


 私はトーストを平らげ、コーヒーを流し込む。


「彩? お父さんの言う通りよ?」


 鞄を掴む。中には『Eclipsed Reverie』が潜んでいる。


「わかってるよ……行ってきます」 


 ──ごめん。


 ◆◆◆◆


「彩!? もういいの!?」


 教室がどよめく。


「……うん」


 それだけ言って着席した私に、周囲はそれ以上干渉しない。


 今は、それがありがたかった。


 ◆◆◆◆


 昼休み。


 しばらく見ていなかったXを開く。


 "関東 事件 連続  since:202×-06-12 until:202×-06-26"でポストを検索する。


 †††

 高座の馬場@koza_bb289

 関東近郊の連続殺人事件、一件目の高校と二件目のクラブ、手口似すぎじゃね?

 

 #殺人事件 #素人探偵


 コールドケースファイル@case_destny

 何処ソースよww

 

 Michel Anderson@khduisfhcnxviu

 はい。このような朝をお迎えし大変に喜びです。


 #関東連続殺人 #仕事行きたくない

 

 †††

 

 さらにスクロールし、肩を落とす。


 ──インプレゾンビ湧きすぎだろ。


「彩、こんな時にSNSなんて覗いても意味ないよ?」


 通りかかった朱里じゅりが、『BURRN!』を片手に、落ち込んだ私の肩を軽く叩いた。


 他のクラス、その上一軍女子ともなると"こう"なのだろう。


 私は小さく息を吐いて、朱里を見返す。


「見たの?」


「その様子じゃ図星か」


「うん……引きこもってる間、何も情報に触れなかったから」


「それ、完全にデジタルデトックスじゃん」


 苦笑いで返す私に、朱里はニヤリと笑った。


「でも、音楽は聴いてた、でしょ?」


「うん、レズナーとかDARK LUNACYとかね」


 メタル仲間は、目を伏せて言う。


「……落ち込んでる時にNine Inch Nailsなんて聴くの、逆効果だよ。癒されるっていうより、痛みが増す感じ……もっと軽くて、気持ちが少しでも楽になる曲を聴いたほうがいいよ」


 諭すように、細く言葉を紡ぐ。


「それ、今月号?」


「ざーんねん」


 朱里は雑誌の表紙を見せる。ユダの司祭たちが写っている。


「メタルゴッドで癒されなよ。鬱々してる時は」


 そう言われて、促されるままに『Painkiller』をイヤホンから流し込む。


 ──心の痛みも、少しだけ和らげてくれたらいいのに。

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