閑話 妖精たちの夜会
月の雫が水面に踊る夜は、光の泉のほとりで妖精たちが花の輪を囲み、妖精たちの夜会を開かれる。赤や緑や青色の個性ある淡い光りを纏う妖精たち。
今日の夜会の話題、その中心には噂のフィフィがいた。
「聞いて聞いて。あの人間——慶太郎っていうの」
「ついに私と正式に契約したのよ」
フィフィのその発表に、姉妹の妖精たちが一斉に羽を震わせた。
「わたし、その子を知ってるう〜」
「あんな平凡で目立たない子と、フィフィが契約するなんて信じられない」
妖精たちの黄色い声が上がる。
「あたし、ちゃんと儀式通りに『光の誓い』まで交わしたのよ。妖精の印もちゃんと刻んだんだから」
フィフィは小さな手を広げ、淡く光る紋章を見せびらかす。
それを見た水の妖精ルルは、ふくれっ面でため息をついた。
「いいなぁ……私なんて、三回も人間に逃げられたのよ。契約の直前で『やっぱ怖いから止めておく』って。何が怖いのよ」
「それは、ルルがはしゃぎすぎるからよ。あの変な舞を人間が見て『呪術』だと思ったに違いないわ」
「ひどいっ。あれは精魂込めた私の祝福の舞なのに」
妖精たちがくすくすと笑う中、フィフィは得意げに続けた。
「でもね、慶太郎は違うのよ」
「ちゃんと私の言葉を聞いてくれるし、迷宮でもフィフィ危ないって庇ってくれたの。危うく常闇の魔物に捕らえられた時も慶太郎は助けに来てくれた」
「あの瞬間、ちょっと胸が……きゅんって」
「きゅんって!?」
「フィフィが、きゅんって言ったあぁぁぁ」
「女王さまに報告しなきゃ。妖精フィフィの恋心っ」
妖精たちは口々に騒ぎながら、花びらを舞わせた。
月光がその輪を照らし、フィフィの頬がほんのり赤く染まる。
「べ、別に恋とかじゃないし。ただ、契約って……信頼の証でしょ。それが嬉しかっただけ」
その言葉に、ルルがぽつりと呟いた。
「私も誰かに“信じてる”って言われたいなぁ」
フィフィは少しだけ目を細め、そっとルルの肩に触れた。
「きっと、ルルにも来るよ。その時は、私が祝福の舞を踊ってあげる」
妖精たちは静かに頷き、夜会の灯がまた一つ、泉の上に咲いた。
◇◇◇
フィフィは泉の光を見つめながら、ふと語り口を柔らかくした。
「あの夜のこと、まだ胸がふわふわしてるの」
「契約の儀式って、妖精にとっては『魂の約束』でしょ」
「でも、慶太郎はちゃんと理解してくれてた。人間なのにね」
妖精たちは静かになり、フィフィの回想に耳を傾ける。
「儀式の場所は、迷宮の『風の間』。あそこ、知ってる? 古代の精霊が眠ってるって言われてる場所よ。月光が差し込む一瞬を狙って、私が『契約の花』を咲かせたの」
「契約の花をフィフィが咲かせたの? すごいじゃない!」
「うん。ちょっと緊張したけど、慶太郎が『信じてる』って言ってくれた瞬間、花がぱっと光ったの。それで、契約の印が浮かんだのよ」
フィフィの瞳が、泉の光を映して揺れる。
「彼、驚いてたけど、逃げなかった。むしろ、そっと手を握って、“これで、君を守れる気がする”って」
「きゃー! それって、告白じゃないの!?」
「違うってば!でも……あの言葉、ちょっと嬉しかった」
妖精たちは羽根を震わせて笑い、フィフィの頬がまた赤く染まる。
「それにね、契約のあと、彼が私に言ったの」
「フィフィは、ただの妖精じゃない。僕のバディだって」
「その言葉、あたしの胸にずっと残ってる」
ルルがぽつりと呟く。
「いいなぁ。私の契約儀式なんて、花が咲く前に人間が逃げたもん」
「光が怖いって……意味わかんない」
「それはルルが『爆光の花』使ったからでしょ」
「あれ、まぶしすぎるって皆が言ってるよ」
「だって、目立ちたかったんだもん……」
妖精たちはまた笑い、夜会の空気が柔らかくほどけていく。
フィフィはそっと泉に手を伸ばし、契約の夜を思い出すように水面を撫でた。
「契約って、ただの儀式じゃない。心が繋がる瞬間なの」
「だから——私は、彼を信じてる」
その言葉に、妖精たちは静かに頷いた。
月光が泉に降り注ぎ、契約の記憶が、夜会の空に溶けていった。
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