第3話屁理屈裁判、開廷!

──そして、裁判当日。


異世界に転移してから一週間。

俺のツッコミは今日も冴え渡る──というか、冴えさせないと死ぬ。


今回の案件は、“くしゃみで勇者の髪を炙った火竜”の弁護。

依頼人は火竜グルマークス。見た目は厳ついが、性格はやたら素直で抜けている。

花粉症でくしゃみをした拍子に、うっかり勇者にブレスを引っかけたらしい。


 


「頼むぞレンジ。あれは事故なんだ。悪気はなかったんだ……」


「そりゃ信じたいけどな、物理的に派手すぎんだよお前のくしゃみ」


 


裁判所にはすでに、被害者──いや、原告として勇者リオ・ブレイバーが到着していた。


金髪のイケメン。見るからに正義の味方って感じで、キラキラ光ってる。

でもその髪の一部は、前髪中心にこんがりチリチリ。


「弁論術士(ルール・ロジシアン)だな。俺の髪、返してもらおうか」


「俺に言うな。それは完全に向こう側のせいだ」


 


 


この世界では、すべての争いが“裁判”で決着する。

力での私闘は禁止され、剣も魔法も封じられた契約の場──神託裁判所でのみ、正当性が認められる。


そこで戦うのが、俺の職業。“弁論術士(ルール・ロジシアン)”。

屁理屈じみたロジックを駆使して相手を論破する、異世界特有の専門職だ。


元・司法浪人の俺、イチノセ・レンジ。

日本じゃ落ち続けた司法試験が、なぜかこの世界では“異世界補正”で通ってしまった。


──剣も魔法も使えないけど、ツッコミとロジックだけは、負けたくない。


 


「お待たせしました。検察官、アレックス・バッジです」


 


遅れて現れたのは、これまたイケメンの検察官。

長身に黒スーツ、身のこなしも言葉遣いも完璧。見た目だけなら100点。


だが中身はというと──


「本件の構造は至極明快。ブレスにより髪が焼失。よって火竜の過失は明白です。

これは炎による重大な物損であり、社会的損害に相当します。よって……あれ、あれ? なんか……」


「あっ、迷子になった! 話の途中でロジック迷子になったぞこの人!」


 


──アホだった。やっぱりアホだった。


原告も被告もアホ、検察官もアホ。

裁判長は──


「……ぐぅ……ふごぉ……」


寝てた。


 


異世界に来て、唯一わかったことがある。

この世界は、裁判で戦う世界だけど──裁かれるのは、もはや“常識”のほうだった。


 


「開廷──すぴー……しました……ぐぅ……」


 


──屁理屈裁判、開廷!

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