第4話 未来への忠告

 それから、彼は嘉穂の方を向いた。


「あんた、付き合う連中は選んだ方が良いぜ。」


そう言うと颯爽と立ち去った。この時、彼女の心はトキメキを覚えた。この先地獄のような壮絶な人生が訪れるとは知らずに。彼が堂々と姿を消した後理恵は怒りと憎しみに満ち満ちた表情で震えていた。


「何が天才少年だよ、ふざけんな。なぜあんな奴が私より実力が上なんだ」といった様子で。


好美は内心「素直に負けを認めろよ、プライドが高いだけのブスが。」と毒づいた。


帰り道、理恵の怒りの矛先は一番立場の弱い嘉穂に向かって爆発した。


「お前が戦いに参加していれば勝てたものを。私に恥をかかせやがってこの恥さらしが。」


睨みつけた上に踏みつけるという散々な扱いだ。


他のメンバーの矛先も自ずと彼女に向かって集中した。


「そうだよ、テメェさえいなければよかったんだこのお荷物が。」


好美もそう言って彼女を蹴りつけた。


他のメンバーは内心怯えながらもこの暴挙に加わった。


嘉穂がいなくなれば次は自分がやられる番かもしれない。


ヒエラルキーの最下位になるのは避けたいというエゴイスティックな強烈な心理が働いているのだ。


だが、と好美は思う。


自分たちも嘉穂と同じなのではないかと。


弱いものだけいじめて強いものには逆らわない卑怯者。


はたから見れば確実にそう見える、というか実際そういわれても文句は言えない立場だ。


散々精神を痛めつけられた嘉穂の心の痛みは人生における最高潮にまで達した。


家路までのいつもの橋を渡る瞬間、衝動的に飛び降りて自らの命を経とうとするまで追い詰められた。橋の下から地上が彼女を呼んでいた。ふとその瞬間、背後から獣のような雄たけびが響いた。振り返ると鮫のような姿をしているイーグルの姿がそこにあった。嘉穂は恐怖心のあまり後退りした。だが、下がった先にあるのは橋のフェンス。もう彼女に後はない。どうせ人生を終わりにしようと思ってたんだし、これは運命だと思って受け入れよう。覚悟を決めて、彼女は静かに目を瞑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る