第4章 暴走
入国
エリュー王国の国境、山奥の森林にて。
エリュー王国に入るための木製の巨大な門の前で、大勢の兵士が門を守っていた。
そして、そんな門に長い茶髪の男性が運転する馬車が近づく。
「おい! 止まれ!」
門の正面に立っていた兵士が、馬車の運転手に話しかける。
運転手は指示に従い、馬を止めた。
「出身と入国目的を言え!」
「我々はグレイブの使者として、貴国の王に謁見するために参った。どうせ身体検査をするんだろ? さぁ、始めてくれ」
「グレイブ王国の人間か......。よし、身体検査を始める!」
運転手が慣れたように検査を促すと、兵士たちは馬車を取り囲む。
「中にいるやつも出て来い!」
外に出るよう指示すると、二人の人物が馬車から出た。
片方は黒髪で眼鏡をかけており、無精ひげを生やしている胡散臭い男。
もう一人は、茶髪の真面目そうな好青年で、少し緊張している。
兵士たちが念入りに身体検査を始める。
体を触り、で武器や異物が存在しないかどうかを確認する。
一部の兵士は手帳を開き、ペラペラとページをめくる。
そして、目的のページを見つけると、書かれている文章や絵を念入りに確認していく。
「早くしてよぉ。早く戻りたいんだけど」
「うるさい! えーっと......。グレイブ国の使いは裾の裏に使いを示す、ハルバードを持った兵士の紋章......」
その言葉を聞いた兵士たちは、使いを名乗る人物たちの服の裾をめくる。
裾をめくると、様々な色の糸で縫い付けられた兵士の紋章があった。
「この紋章は市民には伝えられておらず、王国関係者しか知らない、と......。なるほどな......。ちなみに、通行手形はあるか?」
「勿論。しかも、王様のサイン付き」
胡散臭い男が内ポケットから紙を取り出し、兵士に渡す。
そして、手帳で手形やサインの特徴を調べ、偽造をしていないか確認する。
それから、名前や役職、要件の詳細確認などを聞かれ、胡散臭い男が面倒そうに答えていく。
「......よし、確認が取れた! 門を開けろ!」
兵士が大声で言うと、兵士たちが門を開ける。
「どーも、ありがと」
胡散臭い男はお礼を言い、馬車に乗り込む。
それに続き、真面目そうな男も馬車に乗り込んだ。
馬車の運転手は馬を歩かせ、門を通り過ぎる。
門から離れ、兵士たちに話を聞かれない距離まで離れると、真面目そうな男が口を開いた。
「とりあえず通過できて一安心ですね......」
「なーに心配だったの? 実際に王からの使者なんだから、通過できるに決まってるでしょ?」
胡散臭い男が、馬車の窓から風景を眺めながら返事をする。
窓の外は森が広がっており、リスなどの小動物がウロチョロしている。
そんな平和そうな風景を見て、眠くなってきたのか、胡散臭い男は大きなあくびをする。
「そ、それはそうですが......。エリューはここ数十年で怪盗が増えて、国境をまたぐのがかなり厳しくなっていると聞いたので......」
「そうだとしても、王の使者を追い返すような真似はしないよ。だって、そんなことしたらお互いの王がやり取りできなくなっちゃうでしょ?」
そう言いながら、指にはめている指輪を取り出す。
そして、指輪をじっと見つめ、それから馬車が前進している方向を向いた。
真面目な男からは何も見えないが、胡散臭い男は違う。
指輪とどこかを繋ぐ赤い線がはっきりと見えている。
「この眼鏡の戦宝のおかげで、我々が一歩リードできそうだね。いやー、我々が入手できて実に良かった」
「......しかし、戦宝から出ている線の先に、何があるんですかね?」
「わからないけど、戦宝という不可解な道具の解明に近づけると私は信じているよ。ま、根拠はないけどね」
「......そうですか」
「ふわあぁぁ......。さーて、俺は昼寝でもしようかな。君も私のことを気にせず、自由にしていいよ」
胡散臭い男は座面の上で横になる。
真面目そうな男もつられて眠くなったのか、椅子に座ったまま目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます