ラッティの特別訓練 その3 キラーナの武器
それから、ラッティとの実践訓練は続いた。
三人で交代しつつ、一時間ほどラッティと戦い続けた。
「も、もう無理……」
ビヨンドは疲れすぎて床に倒れた。
「私も限界よ......」
訓練場の隅っこで、同じようにレパールも床に倒れていた。
「はあ......。はあ......」
レパールの隣で、体力に自信があるクレナイでさえも呼吸を乱していた。
「いやー、みんな頑張ったねー」
ラッティも呼吸は荒いが、まだ笑っていて余裕はありそうだ。
「まずは、ビヨンドちゃんの感想からね。ビヨンドちゃんは攻撃防御ともに優れていて、体力はまあまあってところかな。あとはー......」
ゴソゴソとポケットを漁り、トランプを取り出す。
「前に戦いを見てる時にね。器用だなーって思ったんだ」
「あ、トランプ......。そのトランプが無かったら私……」
トランプが無かったら、ビヨンドは確実にラヴァに撃ち殺されていた。
「いやー渡しといてよかったよねー。それで本題に戻るんだけど、ビヨンドちゃん器用だから、武器を使う特訓とかしたらいいと思うんだー」
「武器ですか?」
「うん! しかも、特別に学園長が好きな武器を用意してくれるって! 勿論、四天王が使っている武器も!」
「四天王の武器も!?」
その言葉に驚き、起き上がるビヨンド。
四天王の武器も支給してもらえるということは、憧れの怪盗キラーナの武器を使えるということだ。
「じ、じゃあキラーナさんの武器も……」
「キラーナの? 勿論! あ、そうだ! 休憩中に少しキラーナのことについてお話ししてあげるね!」
「え、いいんですか......!」
「この後レパールちゃんと戦ったら休憩にするから、その時ね?」
「はい!」
「じゃ、レパールちゃんおいでー」
端っこにいるレパールに声をかける。
「えっ......。まだやるんですかー!」
「ほらほら、起きて! 最後に一回ずつ戦って終わりにするから!」
ラッティはレパールの元に駆け寄り、手を引っ張って無理やり起こす。
「楽しみだなー。お話聞くの。どんな怪盗なんだろ?」
話を聞くのが楽しみすぎて、レパールの特訓そっちのけで想像するビヨンドであった。
それから、三人は一回ずつラッティと戦い、本日の訓練を終えた。
そして、キラーナのことを話すために、ビヨンドの元へ歩み寄る。
「さーて、キラーナのことだっけ?」
「はい......。お願いします」
ゼーハーと言いながら、ビヨンドがお願いする。
「その前に、ビヨンドちゃんはどのくらい知ってるの?」
「え、えーっと……。煌めきの怪盗キラーナって呼ばれてることくらい……?」
「あはは、全然だね。キラーナはね、他人の人生を輝かせるから煌めきの怪盗って呼ばれてるんだー。ビヨンドちゃんも心当たりあるんじゃない?」
ビヨンドは、キラーナとの出会いを思い出す。
ビヨンドが幼かった頃、とある小さな島国の村に住んでいた。
そこは、平和で争い事がない村だった。
しかしある日、海賊の襲撃で村は壊され、村人たちは虐殺されてしまった。
そして、母親も。
父親は行方不明になり、海賊に見つかってしまったビヨンドの目の前に現れたのが、村の宝を狙っていた怪盗キラーナだった。
キラーナは海賊たちをいとも簡単に一網打尽にした。
そして、ビヨンドにこの学園のことを伝え、去っていった。
そんな命の恩人に、ビヨンドは憧れた。
その日から、ビヨンドは怪盗を夢見て生きるようになった。
成長し、十五歳になったビヨンドは、一人で国を出てエリューに向かった。
それから、学園に入学し、怪盗ビヨンドとしての人生を歩み始めたのだ。
「どう?」
「確かにその通りです……!」
「でしょー? それでね、キラーナとは生徒だった頃よく一緒にいたんだけどー。正義感が強くて、美しくて、誰もが憧れる存在だったんだー。それで、キラーナが使っていた武器はねー......。傘!」
「か、傘ですか……?」
「全体が金属でできた傘を武器にしてたんだよ!」
「それなら、ビヨンドさんにちょうどいいんじゃないでしょうか?」
二人の会話に入り込んでくるクレナイ。
「ビヨンドさんは大怪我をさせるのが嫌みたいなので。まぁ、私はそんなビヨンドさんに針を撃ち込まれましたけど……」
腹をさするクレナイ。
「あれはあんたが殺そうとしてきたからでしょ……」
「まぁとりあえずビヨンドちゃんがキラーナの武器を使うって学園長に言っとくね! あれなら一緒に特訓してた私が教えられるし!」
「ほ、本当ですか!?」
任せてくれと言わんばかりに親指を立てるラッティ。
「私、頑張ります......!」
憧れに一歩近づけることに喜びを感じるビヨンドだった。
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