盗み見

 五日後の朝。

 ビヨンドがランディと教室で話をしていると、やつれたレパールがフラフラしながら教室に入ってきた。

 他人の机で体を支えつつ自分の席にたどり着くと、机の上に突っ伏してしまった。


「もうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだもうやだ……」


 そんなことを一人でずっと呟いている。

 ビヨンドは立ち上がり、レパールの元へ向かう。

 勿論、心配している訳ではない。

 煽る気満々である。


「反省室生活は楽しかったかしら?」


「そんな......わけ......」


 ハキハキ喋るのが困難なほど衰弱しているレパールに話しかける。

 いつものレパールなら、カッとなって怒鳴っているだろう。

 ビヨンドは普段ならこんなことをしないが、今回の件はかなり不快に思ったのだろう。


「また反省室送りになりたくなかったら、私に手を出すのはやめなさい」


「うぅ......」


「......ちなみに、食事はどんな感じだった?」


 なんとなく気になったビヨンドが質問する。


「一日......パサパサなパン......一つと......水......」


 力を振り絞り、返答する。


「レパールちゃん大丈夫......?」


 心配になったランディがレパールに声をかける。


「心配しなくていいわよ。どうせ昼にご飯食べたら元気になるわよ」


「早く......お昼......」


「というか、そんなに空腹なのに朝食はとらなかったのね」


「さっき部屋出た......ばかりだから......。授業出なかったら......また反省室......」


「さ、流石に可哀想すぎて見てられないよ......」


 心配になったランディは、朝食時に余り、後で食べようとしていたカップケーキを三つ、鞄からから取り出した。


「お昼に食べようと思ってたんだけど......。あげる!」


 レパールにカップケーキを差し出すランディ。

 匂いを嗅いだレパールは、顔を上げて即座に受け取り、貪り始めた。


「ランディは甘いわね......」


 自分にナイフを投げてきたレパールに食事を恵むランディを見て呆れる。

 しばらくの間カップケーキを無言で食べると、満足そうな顔をして腹を押さえた。


「ふぅ、生き返ったぁ......」


「よ、良かった......!」


「ランディ! あんたは命の恩人よ!」


 元気が出たレパールは、ランディの手を掴み、手をぶんぶん上下に振る。


「い、命の恩人だなんてそんな......」


「それに比べて、この人でなしのクソったれゴミ屑人間は......」


 レパールは、ビヨンドのことを睨む。


「私が人でなしなんじゃなくて、ランディが聖人なだけよ。普通、ナイフ投げてきたやつに食事なんて.....」


「ねぇランディ! これから困ったことがあったら私に相談してね!」


 ビヨンドのことを無視し、ランディの両手を強く握る。


「う、うん……」


「おいお前ら。座れ」


 教室に入ってきた教師がそう言うと、生徒はみんな席に着いた。


「任務が書かれた書類と地図を渡すから、呼ばれたら取りに来い。 まずビヨンド!」


「はい」


 ビヨンドは返事をし、教師の前まで移動する。


「これが今回の任務だ」


 ビヨンドは任務内容に目を通す。

 今回の任務の内容は、ある貴族の屋敷から宝石を盗み出すという内容だった。


「ビヨンド。いつも通り盗み出してこい」


「わかりました」


 返事をし、自分の席へと戻る。

 その後、数人が呼ばれ、全員が任務を受け取った後は授業が始まった。



 昼になると、レパールがすぐさま立ち上がり、ランディの元へ向かった。


「ランディ! お昼ご飯食べに行くわよ!」


 レパールがランディの手を掴み、引っ張る。


「私、いつもお昼はビヨンドちゃんと食べてて......」


「そうよ。だからあんたはいつも通り一人寂しく自席で黙々食べてなさいよ」


「で、でもレパールちゃんいつも一人で可哀そうだし......」


「今日はランディとご飯を食べるの! 今日はあんたが一人で食べてなさい!」


「あら、皆さんお元気ですね」


 ビヨンドたちが揉めていると、クレナイが声をかけてきた。


「えーっとあんたは......。たしかクレナイ!」


「貴方は......レパールさんでしたっけ? どうも」


「それで、あなたは何しに来たんですか?」


 クレナイを睨むビヨンド。


「ビヨンドさんをお食事に誘おうと思って来たのですが......」


「私はランディと二人で食べるから。あんたと食べるのなんて嫌よ」


「だーかーらー! ランディは私とお昼を食べるの!」


 ビヨンドとレパールが口喧嘩を始めてしまい、困るクレナイ。

 しかし、しばらくすると、何かを思いついた。


「そういえばレパールさんって最近まともなお食事を口にできていませんよね? 私が少しお金を出して追加でお料理を注文できるようにしますので、今回は諦めてもらえないでしょうか?」


 クレナイは、財布からお金を取り出し、レパールに渡した。


「......仕方ないわね。ランディ、明日は一緒に食事をしましょ!」


 レパールはクレナイからお金を受け取り、食堂へと向かっていった。


「では行きましょう?」


「だから、私は嫌って言ったでしょ。いくわよ、ランディ」


「え、ちょ、ちょっと!」


 ビヨンドは無理やりランディの腕を引っ張り、食堂へ向かった。


「あら……」


 クレナイは、教室に一人取り残されてしまった。



 二人は食堂に着くと、二人で並んで座った。


「もー別にクレナイさんがいても良かったじゃーん」


「絶対嫌よ」


 ビヨンドは、ランディと会話をしながら任務内容を確認していた。


「ふーん、こちらが今回の任務ですか......」


 突然背後から声がした。

 二人は物凄い勢いで振り向く。

 振り向くと、クレナイが立っていた。


「人の任務を覗き見するなんて、どういうつもりなんですか?」


「あら、ただ気になったから見ただけだけですわ。......それでは、頑張ってくださいね」


 クレナイはどこかへ行ってしまった。


「なんだったんだろうねぇ」


「......まさか、ね」


 嫌な予感がしたビヨンドだった。

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