第5話 続郁美の真実
童貞喪失から数日が経った時のことだった。
葛城は、家にいる時、それまで、
「まさか?」
と思っていたことを知ることになった。
そのことを知ってしまい、その事実が自分に、どのように影響してくるのか?
ということを考えると、それこそ、
「まさか?」
という心境になってくるということを想像もしていなかったということになるだろう。
今まで、自分が考えていたことで、気になったのが、やはり、
「郁美のこと」
ということであろう。
最初はさすがに、
「妹だ」
ということで、意識してはいけないと思っていた。
しかし、それを意識しないといけないと感じたのは、
「郁美が、俺のことを意識しているように感じる」
ということからであった。
「俺は兄貴なんだ」
ということで、確かに、
「血のつながりがない」
ということで、好きになっても構わないというのは。
「理屈の上で」
ということであった。
しかし、
「恋愛感情には、誰にも言えない」
という感情であり、
「そこには、大なり小なりの、秘密めいたものがあるはずだ」
ということであった。
それが、自分たち二人の間には、
「血のつながりがない、義理の兄妹だ」
ということであった。
これが、本当に血のつながりがあるということであれば、曲がりなりにもなのかも知れないが、
「諦めがつく」
ということになる。
しかし、諦めようと思っても、
「血のつながりがない」
という事実を考えると、
「妹を好きになっていいんだ」
と感じるのだ。
そこで、
「いいんだ」
ということになってしまうと、自分に対して、
「甘え」
というものが生まれてくることになる。
そう思うと、
「最初から一刀両断であれば、こんなにも悩むことはないんだ」
と思うのだ。
そんなことを考えていると、自分でも分からないうちに、
「意識してはいけない」
と思いながらも、知らず知らずのうちに、見てしまっているのだった。
「郁美が、こっちを意識するようになったのは、こっちが見てしまったからだ」
ということになるということを、その時の、葛城は分かっていなかった。
その時、郁美は、非常に戸惑っていた。
それは、
「兄から見つめられることに戸惑った」
ということなのか、そもそも、
「男性と付き合ったことがなく、免疫ができていないことで、そこで意識してしまったのか?」
ということを感じていた。
兄妹といっても、結構年齢が離れている。
「義母と義妹と、どっちが近いんだっけ?」
というほどの年齢差だった。
それを思えば、
「オンナとしての意識は、義母の方が近いのかも知れないな」
という思いから、
「最近では、義母に対しても、オンナをしてみている自分を感じてしまったりした」
といえる。
しかし、すぐにそれは打ち消した。
やはり、義母に対して感じる思いは、
「母親という感情だ」
と思うのだ。
それは、
「母親というものが、死んでしまったことで、母親に対するあこがれが絶対にある」
ということから。そもそも、義母を受け入れたと思っていたからである。
いくら、義理の息子とはいえ、娘がまだ中学生に入るくらいの若いお母さんに対して、
「オンナをしてみないわけはない」
それを、
「母親として感じることができたのだから、オンナとして見るよりも、母親として見る方が強かったに違いない」
まあ、
「男の子には、母親が必要だ」
などという年齢でもない。まだ、小学生くらいであれば、それも無理はないのだろうが、思春期を越えてきた男に子には、そんなことはいえないだろう。
ただ、
「妹に対して、好きになる感覚を、自分の中で、許せないと思っているのだとすれば、それを排除するというために、母親の存在を必要としたのかも知れない」
だから、そういう意味で、
「血がつながっていない」
ということは、よかっただろう。
ただ、今度は、その思いが偏りすぎて、
「今度は、妹に気持ちが移ってしまったことで、自分の気持ちが許せない」
という、
「どっちに転んでも、許せない気持ち」
という、一種のジレンマに陥ってしまったのだ。
そう考えているうちに、
「こんなに揺らぐくらいだったら、却って、血がつながっていてくれた方がいいのではないか?」
と思うようになった。
そう思うようになると、まるで、
「それを待っていた」
でもいうかのように、その話が現実味を帯びてくることがあったのだ。
それが、
「私。今度結婚しようと思っているの」
という、郁美の告白だった。
郁美はいう。
「お兄ちゃんは、私のずっと憧れだったの。言ってみれば、好きだったのね。でもお兄ちゃんは好きになってはいけない人だったの。お兄ちゃんには、何のことだか分からないと思うんだけどね」
という。
いきなりそんなことをいわれても、
「いやいや、何を言っているんだい」
と口では言ったが、なんとなくその気持ちが分かる気がして、そして、それが、
「自分にとって、一番言われたくない」
と思っているということだと分かっていた気がする。
それを分かるのか、郁美は、抵抗することもなく、白状した。それは、
「いうつもりになっているので、一気に言ってしまわないと、最終的に何も言えなくなる」
ということであった。
だから、意を決して、郁美はいう、
「じっつは、お兄ちゃんと私は、血がつながっているの」
というではないか、
「えっ」
過去に何度か考えたことではあったが、
「物理的にありえない」
と考えることで、簡単に討ち消してきた考えだった。
「どういうことなんだい?」
と訊ねてみたが、
「私のお父さんは、今のお父さんであって、お父さんとつながっているのよ」
というではないか。
「えっ、じゃあ、僕と郁美は、異母兄弟で腹違いの兄妹ということになるのかな?」
「ええ、そういうこと」
と言った。
「それをどうして君が知っているんだい?」
と言われ、郁美は、
「お母さんから聞かされたの」
という。
「どういうことなのか、よく分からないんだが、じゃあ、あの親父は不倫をしていたということなのか?」
と聞くと、
「ええ、そういうことね。しかも、お父さんは、あなたのお母さんと結婚している時、私のお母さんがあなたのお父さんの会社にパートで勤めていたことがあったんだけど、その時に手を付けたということね」
ということであった。
「君のお父さんは?」
「お母さんが私を知グルマザーとして育ててくれていた時に、結婚してくれたんだけど、私を育ててくれていたお父さんも、私が小学生の時に死んでしまったの。だから、またシングルマザーになったんだけど、そんな時、お父さんと出会ったらしいの、しかも、私のお母さんのことを、お父さんは覚えていなかったらしくて私の母にプロポーズしてきたということなのよ」
というではないか。
それを聞いて、葛城は、
「驚いた」
というよりも、正直、
「呆れた」
と思った。
「それで、お母さんが承知したということだね?」
「ええ、義父が亡くなって、途方に暮れていたという時で、しかも、最初はシングルマザーだったけで、義父と結婚して幸せな生活が手に入ったのに、それが、また一転、シングルマザーということで、お母さんは、前のように、私を育てる自信をすっかり失っていたということだったのよ」
という。
「でも、人情的に、親父と結婚するという気分になれるものなのだろうか?」
と言ったが、
「それだけ、背に腹は代えられないということだったんでしょうね。それだけお母さんは大変だったということでしょうし、私を育てるということを最優先に考えたことで、自分のプライドを捨てたということだと思うの」
と言った。
「その気持ちは分かる気がする。俺も、母親を亡くしているので、肉親が亡くなるという気持ちは分からなくもない」
というと、
「ええ」
といって、寂しそうに答えたのだった。
「じゃあ、親父は、君が実の子だということを知らないのかい?」
「ええ、知らないと思うわ、少なくとも、お母さんが話しているとは思えないし」
ということであった。
お父さんとお義母さんは、愛のない結婚だったということか?」
というと、
「お父さんがどう考えていたかは分からないけど、お母さんには、その気はなかったdしょうね」
ということであった。
「愛のない結婚」
ということを考えると、
「なるほど、確かにこれほど、情けないということはない」
と思えるのだった。
それにしても、父親の所業は、
「実にお粗末」
といってもいい。
「知らぬが仏」
というべきか、それとも、
「運命のいたずら」
というべきか、
その事実が、結局、どういうことに繋がるのかということは、
「神のみぞ知る」
ということである。
こんな、本来であれば、
「墓場まで持っていこう」
と思うような秘密であり、少なくとも、
「義母は、そう思っているであろう」
と思えるようなことを、郁美はなぜ話したのだろうか?
しかも、郁美自身も、
「結婚したい人がいる」
という本気なのか分からない告白で、明らかに、
「家を出ようとたくらんでいる」
といえるようなことをしているのだ。
「郁美は、結婚したいと思っているその男が好きなのか?」
と聞かれて、何も言わずに、答えようとしない。
そこで、郁美は、
「自分のことを思い図ってくれている」
という葛城の気持ちが熟すのを待っているかのように、まるで、その場が、
「我慢比べ」
でもあるかのようにお互いに耐えていると、そこで、
「私を抱いて」
という具合な展開になってきたのだった。
「本気なのか?」
と葛城は言った。
葛城とすれば、
「こんな時に、男がいう言葉は決まっている」
と思っていた。
「妹であろうが、望まれて拒む気持ちはない」
ということであった。
だから、
「本気なのか?」
という言葉日なったわけで、しかし、こんな時に、妹が、
「いいえ」
という可能性は、
「限りなくゼロに近い」
と思った。
あくまでも、限りなくということであり、ゼロではないのだが、それは、
「全体の可能性を考えてということであり、二人の間に存在する可能性の中で、ゼロというのはありえない」
ということであった。
すっかり、葛城は、
「血のつながった妹を抱く」
ということを頭の中で正当化していた。
「近親相姦になるじゃないか?」
というのは、この場合には関係はない。
「そもそも、妊娠しないようにさえすればいいだけで、元々、モラルに反している兄妹だ」
ということを考えれば、
「子供が生まれないように、避妊さえしていればいい」
と考えるのだ。
それよりも、
「妹が、抱かれたい」
ということで覚悟を決め、それを相手が拒むということであれば、
「覚悟を壊した」
ということであり、せっかく、覚悟をした彼女の神経を蝕むことになるのではないか?
と考えられるのである。
「そんなことは俺にはできない」
と、恰好はいいが、葛城としても、
「そもそも、血がつながっていない」
ということで、
「恋愛感情を抱いていたことにウソはない」
と思っていたのだ。
もっとも、もし、葛城がまだ童貞だったとすれば、
「血のつながった妹を抱く」
という発想にはならなかっただろう。
「大人になりたて」
といってもいい葛城であるが、
「好きな相手を、感情で抱く」
ということのどこが悪いというのか?
確かに、
「近親相姦」
というのは、
「モラル、倫理的に悪いことだ」
ということになるのだろうが、
「子供ができなければいい」
という考えがあってもいいのではないだろうか?
そもそも、近親相姦の何が悪いというのか、その理由は、
「子供」
ということしか考えられない。
「生まれてくる子供に、身体障碍を持った率が高い」
ということから、近親相姦というものを否定しているようだが、実際には、
「近親相姦が悪いことだ」
という、何か生理学的な意味以外で、
「例えば、政治的なこと」
あるいは、
「民俗学的に血が混じるのがまずい」
ということなのか、それは、それこそ、
「社会通念上」
ということの問題を考えて、
「近親相姦はいけない」
ということを。
「いかなる理由で、世間に認めさせようとするか?」
ということを考えると、
「血の交わり」
ということと、
「宗教的な観点として、モラルや倫理に訴える」
ということになると思えば、
「一部の君臨する人たちにとって、国家を収めていくために、自分たちの都合のいい理屈に仕上げるために、近親相姦というものが、悪いことであり、それは間違っていることである」
と考えるように仕向けているとすれば、
「何も怖がることはない」
ということで、
「法律で禁止はされているが、逆にいえば、それだけのことではないか?」
と考えてしまうのだった。
特に、葛城は、
「最近、童貞ではなくなった」
つまりは、
「肉体的に大人になったばっかりだ」
ということであった。
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