モブ貴族に転生した俺は、勘当された悪役令嬢を絶対手放さない ~顔面ゴリラと馬鹿にされてる俺だけど、暇つぶしに鍛えていたら、悪役貴族を余裕で蹂躙できるようになっていました~
ようやく汚名返上できそうなのに、なぜ俺の傍にいてくださるのですか?
ようやく汚名返上できそうなのに、なぜ俺の傍にいてくださるのですか?
「兄からの命令だ、ネスト。――自分に自信を持て。レイナン様を幸せにするのは、他の誰でもない、おまえ自身なのだとな」
「あ、兄上……」
フィクスからの問いかけに、俺は思考がフリーズしてしまう。
レイナンがずっと、俺の名前を呼んでいた?
何かの間違いとしか思えないが、兄が冗談を言っている様子もない。
というか元々、兄はこんなつまらない冗談をつく人ではない。
俺が戸惑っていると、フィクスが続けて言葉を紡いだ。
「――おそらく、フェミリア様はおまえたちの関係を切り裂くことも目的にしていたのだろう。私が助けに来た時も、〝アルボレオ伯爵家の護衛〟を模した幻影がいた」
「な、なんだって……⁉」
「しかし、それでもレイナン様は懸命に戦っておられた。ネストが裏切っていたとは断じて信じることなく、最後までフェミリア様と戦い抜いたのだ」
「…………」
たしかにそうかもしれない。
俺のもとに現れたのも、リスティアーナ公爵家の護衛を名乗る幻影。
――知っているかな? レイナンはね、君のような粗暴な人間は好きじゃないんだよ。僕のほうが、婚約者としての期間は長かったしねぇ?――
――左様でございます。私も長らくリスティアーナ公爵家に仕えているゆえ存じておりますが……。あなたのような粗暴な人間は、むしろ愛の対象として見なしていないかと――
まるで“レイナンが俺の暗殺を企んでいる”と思わせるかのように会話を誘導してきたのであり――。となれば必然、レイナンのもとにも、同じようにアルボレオ伯爵家の幻影が現れた可能性は高い。
しかしそれでもなお、彼女は戦い続けたのだ。
俺が裏切っていないということを信じて。
「おまえはどうなんだ、ネスト」
そう言うフィクスの目は、いつもより数段鋭かった。
「たしかに最初の出会い方はかなり強引だった。戸惑う気持ちもわかる。だが私にはわかっているぞ? 今のおまえには、レイナン様に対する温かな感情があることをな」
「それは……それはそうですよ!」
ドォン! と。
俺は力強く一歩を踏み出すと、これまでの感情を暴発させるかのごとく捲し立てる。
「今回だってそうです! 俺には〝自分を犠牲にしすぎるな〟とか言うくせに、自分はこうやって気絶するまで戦い続けて……! 悪女という評判を背負ってでも、懸命に前を向き続けて……! そんな素敵な人が、気にならないわけがないじゃないですか‼」
「…………」
「でも、俺の顔はこんなです。上級貴族にも嫌われてます。そんな俺よりも、レイナンを幸せにできる人は他にも……!」
「ふっ、そうか」
フィクスはそこで、なぜか満足そうに笑みを浮かべると。
気を失っているはずのレイナンに向けて、なんと声を投げかけるではないか。
「――そういうことらしいですよ、レイナン様。私の言った通りでしょう?」
「は…………?」
なんだ。
いったいどういうことだ。
俺が目をぱちくりさせていると、なんとレイナンがゆっくりと起き上がるではないか。
「ふう、あなたも策士ね……。フィクスさん」
草やら土やらが衣服についているので、レイナンはそれを手で軽く振り払う。
「気絶の芝居をしてほしいと言われた時は、いったいどういうことかと思ったけれど……。なるほど、これが狙いだったってことね」
「ふふふ……。ネストいわく、私は
人差し指を唇にあてがい、悪戯っぽく笑うフィクス。
「兄上……、まさか
「当然だ。こうでもしなければ、二人は一生このままな気がしてたんでな。――それに」
そう言いながら優しげに微笑むフィクスの表情は、昔となんら変わっていなかった。
「今までがむしゃらに頑張り続けた弟には、やはり幸せになってほしいものだろう?」
「あ、兄上……!」
俺がしどろもどろになっていると、レイナンがゆっくりと歩み寄ってきた。
先の戦いで少しボロボロにはなっているが、それでも俺の愛し続けた女性に間違いはなくて。
本来なら俺と釣り合いが取れないほどの女性ではあるが、その瞳はまっすぐ俺を捉えていた。
「――ふふ、ちょっと変よね。私たちは婚約者なのに、今さらこんな話をすることになるなんて」
「レ、レイナン……。おまえは頭がいい。この行動がどれだけ〝損〟しているか、わかっていないわけじゃないだろう?」
――そう。
第一王子やフェミリアがやらかしたことで、必然的に、レイナンの悪評が薄まる可能性は高い。
彼女が本当に毒を盛ったのか。
フェミリアによる嘘ではないのか。
彼女の悪評について、疑問視し始める声も強まるだろう。
もちろん王族も建前があるし、カーネリア王国における王族は揃って癖の強い人物だ。
なかなか自分たちの非を認めようとしないとは思われるが――だとしても、彼女は今、汚名返上のきっかけを掴んでいる状態だ。
ようやく公爵家に戻れる機会が訪れているのに、彼女は……。
「ふふ、そうね……。もちろん、わかってはいるわ」
しかし彼女は、今まで見たことないくらいに清らかな瞳で俺を見つめる。
「あなたも知っているらしいけど、私の好みはあなたのような男性ではないわ。頭が良くてスマートで爽やかで……。みんなが憧れるような男性像が、私も好きだった。――でも」
彼女はそこで一呼吸置くと、勇気を振り絞るかのように言葉を紡ぐ。
「それ以外にも素敵な男性がいることを教えてくれたのも、あなただった」
「レ、レイナン……」
「悪女と呼ばれて孤独になってしまった私を、あなただけが寄り添ってくれて。私の見えない頑張りを、あなただけがわかってくれて。たとえ自分が格好悪くなっても……私を守ることを優先してくれて。だから――」
「ま、待ってくれ! レイナン!」
ここは男、ネスト・シア・アルボレオ。
筋肉に身を捧げた男として、女性になんでもかんでも言わせるのは違うだろう。
本当に俺でいいのかという不安とは……もうおさらばだ。
「おまえが好きだ、レイナン! こんな筋肉しか取り柄のない俺だが、ずっとずっと、おまえを守らせてほしい!」
「あ…………」
レイナンは大きく目を見開くと、そこで初めて、俺に涙を見せた。
「はい。私も――あなたのことが大好きです」
「レイナン……‼」
信じられない。
本当に夢のようだ。
俺のようなゴリラ顔の男でいいのか、やはり心配にはなってしまうが……。
そういう考え自体を、もはや捨ててほしいってことだもんな。
「ふ…………」
そんな俺たちのやり取りを、兄フィクスはやはり優しい表情で見守っていた。
――俺は思う。
はるか昔、上級貴族たちを俺が蹴散らしてから。
それをきっかけに、俺の評判が悪くなってから。
兄はきっと、償いの時を捜していたのかもしれない。
自分を守ったせいで悪評の広まった俺が……少しでも幸せになれるようにと。
俺がレイナンと釣り合わないと考えていたのも、その悪評がひとつの理由だったから。
「兄上……ありがとう。兄上はやっぱり兄上だ」
「ふふ、意味の分からんことを言い出すな阿呆」
フィクスはそこでふっと笑うと、俺の肩にそっと手を置いた。
「幸せになれよ。おまえならレイナン様を守り通せるはずだ」
「兄上……、もちろんです!」
「レイナン様。見ての通り筋肉バカな弟ではありますが、こいつは誰よりも真っすぐでいい男です。まだまだ未熟な点もあるかとは思いますが――どうか、この男をよろしくお願いします」
「ええ。任せてちょうだい」
――ああ、兄上。
あなたは本当に素敵な男性です。
ただ顔がイケてるってだけではなく、器も俺よりよっぽど大きいんじゃないかと思います。
そんなあなたが、俺たちの幸せを願っているというのなら。
こんな俺でも、幸せになっていいのであれば。
このネスト・シア・アルボレオ、これからは旦那として、レイナンを一生幸せにしてみせます。
気づけば夕暮れ時に差し掛かったのか、優しく孤島を照らし出す夕日の光が、優しく俺たちを包み込んでいた。
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