今俺がやるべきことは

「ぐほぁっ……!」

「な、なんだこの筋肉バカは!」


 一方その頃。

 俺ことネスト・シア・アルボレオは、筋肉にものを言わせ、〝リスティアーナ公爵家の護衛〟と名乗る者をぶっ倒していた。


 うん。

 戦っていて実感したが、こいつら何かおかしいな。

 まるで後頭部に目があるかのように、全方位に対しての認識力が異様に高い。

 さらに一瞬だけではあるが、身体が不自然な方向に曲がっているのも見た。


 限りなく人間に近い形をしてはいるが、さながら作られた存在であるかのような――。そんな違和感があるのである。


 だがまあ、そんなことはまったく関係ない。


「なぜならば、筋肉は裏切らないからだ‼」


 上腕二頭筋をアピールする形で、二の腕をぐっと持ち上げる俺。

 その様子を、ひとり生き残っている第一王子シュナイレが絶望の表情で見つめてきた。


「ふ、ふざけるな! 精鋭の護衛までつけて、危険度Sの魔獣まで味方につけて……! 念には念を入れたはずなのに、これはいったいどういうことだ!」


「クク、簡単なことだ第一王子よ。おまえは毎日欠かさず筋トレをしているのか?」


「な、なんだって……?」


「していないのならば、それが理由ってことだ。筋トレをしているか、していないか。それが勝負の明暗を分けたということだな! ははははははは!」


「…………駄目だ、話が通じん!」


 ストレスを発散するかのごとく、自身の髪を乱暴に掻き上げる第一王子。

 すでに王子としての風格は完全に失われているが、まあ、そんなのは今さらな話か。


「ならばせめて、体力の消耗だけでも……!」


 第一王子はそう呟くなり、俺に向けて片腕を突き出してきた。


 わずかな魔力の流れを感じる。

 最後は王子自身が戦うということか。


 今まで散々強敵を倒し続けてきたし、彼では勝負にならないのをわかっているはずだが――。


「なるほど。俺の疲弊を誘いつつ、その後は出没している魔獣たちにすべてを託す戦略か。土壇場で思いついた策にしては中々できているじゃないか」


「ふん……! さすがに計算外だったよ。貴様のような脳筋にすべてを壊されるなんてね」


「はっはっは! 脳筋か。褒めてもらっては困るな!」


「褒めてない!」


 第一王子は大きく叫び声をあげると、突き出した右腕から魔法を発動。

 強烈な風圧を誇る風の塊が、放射のような形で俺に襲い掛かってくる。初めて彼が学園に来た時も風に乗ってきていたし、風を操る魔法が得意なんだろうな。


 さすがはAクラスに配属されているだけあって、威力も申し分ない。


 だが――。


「そうだな。せっかくの機会だし、おまえにも筋トレの良さを教えてやろう!」


「は……?」


 第一王子が目を見開いた瞬間には、俺は奴の頭上まで跳躍済み。


 風魔法?

 あの程度の魔法で、俺の筋肉が傷つけられるわけないだろ。


「さあ、腕立て伏せの時間だ! 俺の体重分、負荷をかけてやるよ!」


「ま、待て――!」


 第一王子が慌てたように制止を呼び掛けてくるも、時すでに遅し。

 俺は空中で横向きの姿勢になると、容赦なく第一王子の背中に落下。


 せっかく事前に呼び掛けてやったのに、第一王子は腕立て伏せの体勢を取ることもなく、そのまま落下する俺の体重を受け止めてしまった。


「かはっ……!」


「何してるんだ第一王子! その軟弱さでは国を背負って立つことはできんぞ! 気合いを出せ!」


 俺はそう発破をかけると、再度空中に飛躍。


 ――そうだな。

 せっかくプロテインで筋肉が増強したことだし、そこらの木々の三倍くらいは飛んでみるか。

 体勢を整えてやる時間がないと、こいつも腕立て伏せできないだろうし。


「さあもう一度だ! 一緒に腕立て伏せをやるぞ!」


「や、やめてくれ……!」


「ん? どうした、何を言っているか全然聞き取れないぞ!」


 ドォォォォォォォォォォォン!

 俺は再び、はるか上空から容赦なく第一王子に落下。


 最初の一撃でかなりのダメージになってしまったようで、もはや立ち上がる気力さえ失っているようだな。


「うぶ……! うぎゅううううううううう!」


 王子とは到底思えないほど、下品に泣き崩れてしまっている。


「…………」


 だがもちろん、こいつはこの程度では許さない。

 俺はふうと息を吐くと、今度は第一王子の襟元を掴んでみせた。


「……惨めなものだな。孤島に魔獣を出現させ、多くの生徒を死の危険に追いやっている人間が――簡単にくたばれると思うなよ?」


「ふ、ふがふが……!」


 なんと。

 さっきから口調が変だと思っていたが、どうやら顎が外れているようだな。

 狙っていたわけではないが、さっきのプレスの当たりどころが悪かったのかもしれない。


 しかも両目から大粒の涙をとめどなく流しているので、もはや王子としての風格は完全に失せている。


「……どうした、王子よ。痛いのか?」


「ふ、ふがふが……」


「だがおまえは、それ以上の痛みをレイナンに味わわせた。少しはやられる側の辛さを思い知ったか?」


「が、がががが……」


「もし本当に申し訳ないと思うなら、今この場で謝罪してみろ。もし誠意が感じられたのなら、ここで解放してやらんでもない」


「がががが……」


「おっと。そうか、そうだったな。顎が外れて喋れないんだったなぁ」


 俺はニヤリと笑うと、王子の襟を掴んだまま、もう片方の拳で王子の腹部を殴打。

 もちろんある程度は手加減しているが、それでも、俺の拳が腹にめりこんでしまっているな。


「うげぇ……!」


「さあ、謝るまでやめないぞ! さっさと謝罪してみろ!」


「ふがふが、ふがふが……。がああああっ!」


 何かを懇願するかのように声を発する第一王子だが、謝罪の言葉が出てこないうちは仕方ないよな。


 俺はそれからも、奴が気を失うまで殴り続けた。

 そうでもしなければ、こいつに人生を陥れられてしまったレイナンが報われない。この孤島で被害を負ってしまった生徒たちも、少なからずいるだろうからな。


 離れたところで戦っているレイナンも心配ではあるが、念のための一手は打ってある。


 俺が最も信頼しているあの男・・・であれば、しっかりとレイナンを守ってくれるだろう。


 それに彼は、俺が知る限り一番のイケメンだ。

 俺なんかと一緒になるよりも、その男と一緒にいたほうが彼女も幸せだろう。


 それまでの間、俺がやるべきことはひとつ。


「もう二度とレイナンに手を出すな。わかったか?」


「ふ、ふがふがふが……!」


 レイナンの幸せを邪魔するこいつを、徹底的に痛めつけるだけだ。

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