最も嘘つきな階段

Mad Fruits Company

1

ロジャー・フィンチの新しい詩の出来はマジで全部サイテーで、俺は読んだその場で買ったばかりのその詩集を本当に床に投げつけた。

 フランスだかスイスだかに咲く何とかって花と清楚な(要するにファックだのドラッグだのと無縁のクソつまらない芋女って事)お嬢様と雄大な山々についてがダラダラと書かれている。

 俺がその詩人を知ったのは大好きなバンドがそいつの詩に曲をつけて歌っていたからだった。実に良い曲だった。こんな詩だ。

 カンフーの達人の女子高生が兄貴とファックしてたらママがそれを知る。怒り狂ったママは兄貴をショットガンで撃ち殺し、死体を何度もレイプする。涙と血に塗れたママは銃を自分と娘と交互に向ける。葛藤と狂気の中で最後には自分の頭を吹っ飛ばして絶頂する。

 俺は生まれて初めて図書館に行ってフィンチの詩集を何冊か借りた。いや、どれも素晴らしい詩だった。

 それがどうだ。俺は同名の別人を疑い、本を隅から隅までもう一度調べたが、奥付けにある署名は、これまで読んできた彼の作品と寸分違わず間違いなく彼のものだった。

 土曜の夜にどこへも行かず、オタク野郎みたいに家で本なんか開いたのがいけなかった。

 俺は床に落ちたクソ詩集を拾い上げ、何ページかを破りとる。

 おお麗しのクソ清楚の君、今からマスをかかせていただきとう存じますが、よろしゅうございますか?

 俺はとにかく手早く一発抜いてしまいたかった。

 ベルトを緩め、イチモツを取り出したところで電話が鳴った。

 俺は無視してマスをかきはじめたが、電話は諦める気配なく鳴り続けている。

 諦めた俺は舌打ちすると電話の通話ボタンを押した。

「マット、アンタどういうつもり? 今夜8時に"シカダ"で待ち合わせって言ったのはどこのどちら様でしたっけ?」

 聞いた事のない女の声だった。随分お怒りの様子だが身に覚えはないし今夜は誰とも約束していない。

「ちょっと、何とか言ったらどうなの? 言ったわよね? 今度すっぽかしたらアンタのチンボコを鍛冶屋みたいにハンマーで叩いて良いって。それで良いってことよね?」

「おいちょっと待ってくれ。お前誰だよ? 何でこの番号知ってる? ていうかマット違いじゃないか?」

 電話越しに女がため息をついた。「いや、本当に誰…?」。

「誤魔化すにしたってもう少しマシな言い訳って思い付かないワケ? …いいわ、1から10まで教えたげる。アンタは今朝7時にあたしに起こされて、あたしの淹れたコーヒーを飲んであたしが作ったベーコンエッグとシリアルの朝食をとった。仕事に行く前にあたしにフェラをせがんだ。15分の濃厚なフェラでスッキリ気持ちよくなったアンタは『それじゃあ行ってくるよマリー』と言ってキスして、あたしは行ってらっしゃいとキスを返した。さて、そろそろ彼女の顔を思い出した?」

「いやいやいや、イカれてんのか? 派手な人違いなのか? どっちにしたって迷惑なんだよクソ女。俺の仕事は専ら在宅だし一緒に住んでるような女もいない。今朝は9時に起きてビール飲んでマスをかいた。頭のおかしいマリーにも心当たりがない。そういうワケだから、分かったらマヌケなマットによろしく言っといてくれ。くたばれ」

 俺は電話を切った。

 寝転がったまま、すっかり元気をなくしたイチモツをしばらく手でいじくり回してみたが、もう一発抜いてスッキリしようって気は失せてしまっていた。

 電話がまた鳴る。

 携帯の液晶に表示されているのは先と同じ番号だ。俺はまた通話ボタンを押す。

「良い加減に……『よく聞きな腐れチンポ野郎。今からアンタの親を殺す。首を刺して胸を刺して、手も足もバラバラにして苦しめに苦しめて殺してやる。兄妹も殺す。叔母さんだの叔父さんだの、親戚もみんな殺す。同じように早く死にたいって言いたくなる様な酷い殺し方で殺してやる。絶対に殺し』…」。

 何だ今のは?

 女の勢いにビビって思わず電話を切ってしまった。

 どう考えても人違いなんだが、そっちのマットはどういう野郎なんだ? 

 イカれ女からの電話にこれ以上付き合いたくなかったので、携帯の電源は切った。

 俺はテーブルから水パイプを引き寄せ、手早く草を詰めて火で炙ると深く煙を吸い込んだ。

 加減を忘れて目一杯吸い込みすぎたせいでむせてしまう。

 やがてゆっくりと体の周りを生ぬるい液体が包んでいるような心地よい感覚。音が研ぎ澄まされ外を走る車の音がやけに長く尾を引いて聞こえた。

 もう良い眠ろう。マスかきやめ、だ。

 俺はゆっくり目を閉じた。

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