第14話 琥珀色の絆創膏
高村さんの手は、あの幼い頃の記憶と同じくらい、温かかった。店内のざわめきも、キャンドルの揺れる炎も、すべてが遠のいていく。目の前には、琥珀色の瞳だけがあった。
「あの時、僕、本当に嬉しかったんだ。千尋が、僕の絆創膏を貼ってくれた時」
高村さんの声は、少しだけ掠れていた。
「私、覚えてる。あの、キャラクターの絵が描いてある絆創膏……」
私の言葉に、彼は驚いたように目を見開いた。
「まさか、そこまで覚えていてくれるなんて……。あの後、転勤で引っ越したって聞いて、本当に残念で。もう会えないものだと、ずっと諦めていたから」
彼もまた、私と同じように、いや、それ以上に、あの日のことを大切に心に留めていてくれたのだ。
「私も、ずっと探していた。どこかで、また会えないかなって」
私は、彼の手に重ねた自分の手を、ぎゅっと握りしめた。彼の指の感触が、幼い頃の記憶と重なって、胸がいっぱいになった。
私たちは、その夜、これまで語り合えなかった空白の時間を埋めるように、たくさんの話をした。
幼い頃の思い出、それぞれの学生時代、そして、大人になってからのこと。
彼が、なぜ『夜のカフェテラス』という本を大切にしていたのかも、自然と理解できた。きっと、あの本の中に、彼が探し求めていたノスタルジックな風景や、かつての思い出と重なる情景を見出していたのだろう。
「まさか、あの雨上がりの交差点で、千尋と再会できるなんて。あの時、手帳を拾い上げて、千尋の顔を見た瞬間、どこか懐かしい気がしたんだ。でも、確信が持てなくて……」
高村さんは、少し照れたように言った。
「美咲さんの打ち上げで再会した時も、本当に驚いた。これは、ただの偶然じゃないって、その時思ったんだ」
彼の言葉一つ一つが、私の心に、温かい光を灯していく。
私たちが重ねてきた偶然は、全て、この再会のための導きだったのかもしれない。
「ねぇ、悠真くん」
幼い頃のように、彼の名前を呼ぶ。その響きは、私にとって、ずっと心の奥にしまっていた宝物を、ようやく取り出したような感覚だった。
彼は、私の言葉に、優しく微笑んだ。
「千尋、また会えて、本当に嬉しい」
彼の琥珀色の瞳が、キャンドルの光を映して、温かく輝く。
私たちは、長い年月を経て、再び巡り会うことができた。
それは、まるで夢のような出来事だったけれど、彼の温かい手と、目の前の確かな存在が、それが現実であることを教えてくれた。
帰り道、恵比寿の駅に向かう足取りは、まるで空を飛んでいるようだった。
雨はもう止み、夜空には満月が輝いている。
駅の改札前で、私たちは立ち止まった。
「今日は、本当にありがとう。すごく、楽しかった」
私がそう言うと、高村さんはそっと私の頭に手を置いた。
「僕もだよ、千尋。また、近いうちに会おう」
彼の指先が、私の髪を優しく撫でる。その温かさが、私の心をそっと包み込んだ。
彼との別れは、少しも寂しくなかった。
むしろ、私たちの未来に、明るい光が差し込んでいるような、確かな予感があった。
それは、琥珀色の記憶が紡ぎ出す、新しい物語の始まりだった。
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