第45話 へなちょこ野郎
「サーブル!これに捕まれ!」
エトワールが先ほどの矢に呪文を唱えた。矢はスルスルとゴムの様に伸びサーブルをくるりと巻くとエトワールの足元にビタン!と放り投げた。
「…ありがとうございます。皇子!」
サーブルはすぐに立ち上がったが足元はふら付いている。
「惜しいな。まあ、直ぐに殺さなくてもじっくりいたぶってやる。」
皇帝は不気味な笑顔を見せた。
「おい、このクソ野郎。エフェを殺しておきながらリテをいいようにこき使い、エトワールの血まで飲んで絶対に許せない。お前をこの彷徨いの谷の怪物の餌にしてやる。」
ロスタルの身体からとてつもない気迫が漂っていた。
「ロスタル。今のお前と私では力の差がありすぎるぞ。」
そういう皇帝の周りにはパワーが漲り火花がパチパチと散っていた。
「行くぞ!」
ロスタルはそう言うと剣を抜き皇帝に向かって行った。だが皇帝はロスタルの動きを分かって居るかの様にかわして行く。
「どうした?全然当たらないじゃないか。」
皇帝はニヤニヤしながら挑発した。
「私も行きます!」
そう言ったのはモンテスだった。モンテスもロスタルに加勢して皇帝に向かって行ったが全く歯が立たなかった。
「お遊びはこれまでだ。」
皇帝はそう言うと呪文を唱えた。するとロスタルとモンテスは苦しみ出し血を吐いた。
「フハハハハハ。馬鹿め。お前らなんて敵ではない。」
そう言うと皇帝は手をグッと握る仕草を見せた、するとロスタルとモンテスは苦しみ出した。
「うううう…うあ……」
二人の苦しそうな声は聞いていて辛かった。
「やめろ!」
エトワールは剣を抜き皇帝に向けた。
「ほう。お前がそんな事出来るのか?お前の特技はお人形さんゴッコだろ。」
皇帝がニヤリと笑った。エトワールは冷静に皇帝を見た。すると近くの木の枝がにゅるにゅると伸び皇帝を縛り上げた。
「うっ。」
ほんの一瞬、皇帝が怯んだ隙にサーブルが剣を皇帝の心臓に突き刺した。
「グっ……」
「やった……」
深く刺さった剣をみてサーブルは手応えを感じた。
「何だ、蚊に刺されたのか。」
皇帝はそう言うと剣を素手で掴みグッと抜いた。
「なにっ。」
皇帝はサーブル目がけて強烈なパンチをお見舞いした。
「ぐわっ。」
サーブルは宙を舞い地面に思い切り叩きつけられた。そしてデグラスはエトワールの方を見て呪文を唱えた。するとサーブルの剣が生き物の様にグニャグニャと動きエトワールの足に突き刺さった。
「うううっ。」
声にならない声を出しエトワールは痛みで息が出来なかった。
「その剣は生き物の様に動きお前の骨、内臓、心臓、体全てを破壊していくだろう。ゆっくりと時間をかけてな。」
皇帝は苦しむエトワールを見て笑っていた。
「おい、アンベス。お前は何をしているんだ。」
皇帝は隣でガタガタ震えているアンベスを呼んだ。
「怖がってる暇があるのならあいつらを処分しろ。」
皇帝は冷たくアンベスに言った。
「ええ?私がやるのですか?」
アンベスは情けない声を出した。
「そのくらいやれ。彷徨いの谷にでも落としたらいい。」
アンベスは乗り気ではなさそうだが皇帝が怖いので重い腰を上げエトワールの方に歩いた。
「アンベス!そんな事をしてないけないわ!」
ハンナがアンベスに向かって叫んだ。アンベスの足がピタッと止まった。
「何をしておる。早くやれ。」
皇帝が急かした。
「…いです。」
アンベスはなにかゴニョゴニョと話してる。
「なんだ。」
皇帝は面倒くさそうに言った。
「出来ないです!」
そう言うとアンベスはエトワールに駆け寄り足に刺さった剣を抜こうとした。
「馬鹿な奴め。」
皇帝はイライラしていた。
「お前ら全員まとめて谷底に落としてやる。」
皇帝はそう言って手をかざし魔法をかけようとした。
「やめて!不死鳥を呼ぶから。」
ハンナが叫んだ。皇帝の動きはピタリと止まった。
「おおー。初めからそうすればいいんだよ。」
ハンナは皆の方をチラッと見た。ロスタルとモンテスは胸を押さえて苦しがっている。サーブルは怪我をして大量の血が流れて、アンベスはべそをかきながらエトワールの足に刺さった剣を必死に抜こうとしている。もうこのままでは皇帝に皆が殺されてしまう。ハンナは不死鳥を呼んだら自分も始末されるだろうと思ったがもうそれでもいいと思った。
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