第39話 紫の美しい鳥
「老いの村の奴らを殺す!」
「我が国を馬鹿にするやつは許さない!」
「一人残らず殺してやる!」
「デグラス皇帝は最高の皇帝だ!」
「我が国は素晴らしい」
国民達は憑りつかれたかの様に同じ言葉を繰り返している。皆、武器を持ち出し、老いの村を襲いに行く準備を始めた。いくら魔力が使えるからとはいえ、少ない民族なので到底勝ち目はない。
「ロスタル、何をしておるのだ。」
皇帝が聞いてもただ、呪文を唱えているだけのロスタルに皇帝は腹が立って来た。
「いい加減にしろ。」
そう言うと、ロスタルに向かってグッと掴む仕草をした。
「ううっ。」
ロスタルは心臓を掴まれた様な痛みに苦悶の表情を浮かべた。
「まだ序の口だぞ。もう少し本気を出せばお前はひとたまりもないぞ。」
皇帝の言葉にロスタルは呪文を唱えるのを止めた。
「お前はいつもコソ泥の様で嫌いなんだ。もう少し仲良くする為に腹を割って話さないか?」
皇帝は優しい口調でロスタルに言った。
「腹を割ってかぁ。いいね。そうしようか。」
ロスタルがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
その時、皇帝達が居る部屋にサーブル、エトワール、モンテスの三人がスポンと入って来た。
「何なんだお前らは!?」
皇帝はいきなり現れた三人に怒鳴った。
「ハンナお嬢様を助けに来た。」
サーブルが何のためらいもなく答えた。
「サーブル!」
ハンナがロスタルの後ろからサーブルに駆け寄ろうとした。
「おっと、ダメぇ。」
ロスタルはハンナの腕を掴んだ。
「離して!」
腕を振りほどこうとするがロスタルはガッチリ掴んでいる。
「こんな事をして何になるのですか?」
サーブルが落ち着いた様子でロスタルに聞いた。
「何って、僕はただ自分の目的を果たしたいだけ。」
そう言うとぐっとハンナを自分に近づけた。
「おい、貴様ら。勝手な事を言っておるが、もう直ぐでここに国民が到着するぞ。ゾンビの様になった奴らはまずはお前らを倒しに来るからな。そして次は老いの村を滅ぼすのだ。」
皇帝はニヤニヤしながら言った。
「皇帝は国民を何だと思っているのですか?こんな、、人々を操る様な真似をしてただでは済まないですよ。」
サーブルが怒りに震えていた。
「いつから私に説教できる身分になったのだ?いいか?国民は私の所有物だ。何をしようが関係ない。それにこの私に操られるのなら奴らも本望だろう。それに、お前らに国民は切る事は出来ないだろう。大人しくやられろ。」
皇帝はそう言うとハンナの元に歩き出した。
「不死鳥が近づいて来てます!」
モンテスの声に皆、一斉に空を見た。
「あれが、不死鳥だと?」
皇帝がニヤリと笑った。
「僕の願いがそろそろ叶うかな。」
ロスタルが勝ち誇った様に言った。
「何を企んでいるのです!」
ハンナはロスタルを睨みつけた。
「ロスタル侯爵。なぜ貴方がこのような事をしなくてはならないのですか?あんなに優しかったではないですか!?」
エトワールはロスタルとは知り合いだった様だ。
「優しくするだけならいくらでも出来るさ。その方が色々何かと便利だからね。僕はハンナ嬢を使ってあの紫色の不死鳥を呼び寄せたかったのさ。なんとしてでも叶えたい願い事があるんだよ。その為には何だってするさ。」
「貴方が何を考えているのか分からないですが、母を亡くした私にいつも寄り添ってくれていたあの優しさは偽りなんかではないと思っていました。なのにとても残念です。」
エトワールが悲し気な表情を見せたその時、すぐ横を弓矢がかすめて壁に刺さった。
「誰だ!?」
それは皇帝に洗脳された国民の一人だった。外壁をよじ登りサーブル達目がけて矢を放ったのだ。
「やめろ!貴方達は騙されているのだ!」
エトワールが叫ぶが国民の目は虚ろで声は届いていない。
「フハハハハ。お前たちにこのゾンビ共は切れないだろう。愚かな奴らめ。」
皇帝は椅子に腰かけて眺めている。何の罪もない国民をエトワールやサーブルが殺せない事を分かって居るのだ。
「くそ。このままだとここに国民が押し寄せてしまう。」
サーブルが窓の外を見るともうそこまでやって来ていた。
「不死鳥もすぐそこまで来ています!」
モンテスが焦り始めていた。
エトワールもサーブルもどうすればいいのか考え付かないでいた。
「我が国の恥だ!」
とうとう国民はそこまで登り詰めて来た。もうこれは何の罪もない人々を傷つけなくてはいけないのかと皆、思ってしまった。
「ケーン」
その時、不死鳥もハンナ達が居る部屋のすぐ近くに来た。
「おお、何という美しさだ。」
皇帝は生唾を飲み込んだ。
不死鳥はベランダの手すりに止まった。その大きさは白い不死鳥の何倍もあり頭の先から長い尾の先まで綺麗な紫色だった。その神々しさに皇帝もアンベスもコットも呆然としてしまった。
「ケー―――――ン」
不死鳥が鳴くとふわっと風が吹いた。
「悪党を捕まえろ!」
不死鳥に気を取られてしまっていたサーブルの背後に国民が剣を突きつけた。サーブルも相手が何の罪もない国民なだけに無闇に手を出せなかった。
「いいぞ。我が優秀な国民よ。そのままこの悪党をやってしまえばこの国の英雄になれるぞ。」
皇帝がそう言うと洗脳されてる国民は喜んだ。
「離してくれ。そうしないと貴方を傷つけなくてはいけなくなる。」
サーブルが訴えたが聞こえていない様だった。サーブルが仕方のない様子で腰の剣に手をかけた時だった。
「ケー――――ン!」
不死鳥がひときわ高い声で鳴き、羽を羽ばたかせた。その羽ばたいた風圧がサーブルの後ろに居る国民を直撃すると、黒い靄の様な物がふぁっと抜けた。
「あれ?俺は何を…えっ!?騎士団長様!?」
その男は自分がサーブルに向かって剣を向けていたことに大変驚いていた。
「申し訳ございません!何がどうなっているのか…すいません!」
男は正気を取り戻した様だった。
「いや、大丈夫だ。ここは危険だからもう下に行きなさい。」
サーブルが優しく促すと男は何度も謝り部屋を出て行った」。
「凄い。お願い!不死鳥!他の国民の洗脳も解いてあげて!」
ハンナが不死鳥に言うと、ハンナの方を向き一度頷いた。そして下にいる国民や外壁を上ってきている国民に向かって「ケー―――――――ン」と高い声で鳴き羽を何回か羽ばたかせた。その羽からの風圧は温かい春風の様に心地よかった。
「え?何をやってるんだ?」
「あら?やだ私ったらここで何をしようとしてたの?」
国民達は今までの記憶がすっぽりと抜け落ちている様だ。そして何事もなかったかの様に皆、家は仕事場へと向かって行く。
「皇帝、残念でしたね。」
エトワールが皇帝に向かって言うと、皇帝は声を上げて笑い出した。
「ハハハハハハハ。コットの術をあんな簡単に消し去ってしまうとは不死鳥の奴め、益々その力が手に入れたくなったぞ。」
皇帝の言葉にハンナ達は怒りを覚えた。
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