第37話 強い者と弱い者

「サーブル…」

皇帝の魔法で心臓を掴まれた痛みでハンナはまだうずくまっていた。


「わーーーー!!」

より大きな歓声が聞こえて来た。きっとサーブルとモンテスが処刑台に上ったのだろう。ハンナはどうする事も出来ないままの自分を恨んだ。

「何が不死鳥よ。こんな姿になっても男性からは気持ちの悪い目で見られるし家族とは離れ離れになるし…こんな力要らなかった。男みたいな容姿でもいいからまた前の様な生活に戻りたいわ。」

ハンナは涙が溢れて止まらなかった。

「ハンナ嬢、帰りましょうか。」

ロスタルが手を差し伸べたがハンナは無視をして声を出して泣いた。


「何者だ!?」

「捕らえろ!」


泣いてるハンナの耳に飛び込んだのは兵士たちの怒号と国民のドヨメキだった。

「何事だ?」

皇帝が処刑台の様子を覗き込むと顔色が変わった。

「あれは!村長とメドック!」

ハンナはその声に反応した。処刑台の上に村長とメドックが立っていたのだ。

「村長さん!」

ハンナの声は届いて居ない様だったが一筋の光が見えた。


処刑台の上に移動した村長とメドックは直ぐにサーブルとモンテスに近づいた。だが兵士たちも村長達を捉えようと駆け付けた。


サーブルの元に駆け付けた村長は、エクラから貰った短剣でサーブルの手首を縛ってる縄を切った。

「村長、ありがとうございます!」

サーブルは村長にお礼を言った。

「これでもう一人の縄を切ってくれ。」

そう言ってサーブルに短剣を渡した。それを受け取ったサーブルは目にも止まらぬ速さでモンテスの手の縄を切った。もうそうなれば、攻めて来る兵士は敵ではなくなった。サーブルは短剣で迫って来る兵士と戦った。それでも騎士団の中でも群を抜いて強い二人には敵う者はいなかった。

「サーブルさん!私達の近くに来てください!そちらの方も!早く!」

メドックが叫ぶと光の速さで二人は村長とメドックの近くに来た。

「おお流石じゃ。では行くぞ!」

村長はそう言うとサーブルの肩に手を置き、メドックはモンテスの肩に手を乗せた。

「お願いします。」

サーブルが村長に合図を送った。その瞬間四人はパッと消えた。

それを見ていた国民達は静まり返っていた。


「おのれ…、おい!コット!なぜ奴らの気配を感じなかった!」

化け物の皇帝が怒鳴ると地響きが起きた。皇帝は国民の前に出て行った。


「皆の者!今、老いの村の奴らが悪人を助けに来た。あの村の奴らは妖術が使える。悪人と手を組み次は何の罪もない我等を狙うだろう。今、皆の力を合わせて老いの村の住人を皆殺しにしよう!」


皇帝が声高々に宣言すると国民は歓声を上げた。

国民からは黒い靄が出ている。もう、皇帝の言いなりだ。


「そんな!酷い事を!老いの村の人々は何も悪くありません!」

ハンナは皇帝に反論した。

「ハンナ。残念だがもう国民は老いの村を襲う事しか考えられないのだ。私が言う事は絶対なのだ。」

「貴方は最低です。」

ハンナは涙を流した。

「最高の誉め言葉だな。ところで、さっきまで威勢の良かったロスタル侯爵は何をしておるのだ。私が、お前と同じ位の力を持ったから怖気づいたのではないか?」

皇帝が笑いながらロスタル侯爵の方を見た。その瞬間、皇帝は真顔になった。

ロスタル侯爵は何か呪文を唱えていた。その魔力は強力だった。

「何をしておる!」

皇帝は剣を抜きロスタル侯爵の方へ向かって行った。アンベスとコットは驚き半泣きで抱き合っている。

「邪魔しないでもらえますか?」

そう言うと皇帝の剣はロスタルの魔力でグニャリと曲がった。それをみてアンベスとコットは益々泣きたくなった。


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