第22話 お前は何者だ


「村長、今日は他の村人は居ないのか?」

余りの静けさに皇帝は少し疑問を持った。

「もう皆、年ですので。家に籠りっきりになっております。」

村長はお茶を用意して皇帝とコットの前に出した。

「どうぞ。」

「我々もこのお茶を頂いたら失礼するよ。」

皇帝はそう言いながら周りをキョロキョロと見回した。

「失礼します。」

その時にメドックが部屋に入って来た。

「村長、皆入りました。」

村の住人がシェルターに入った事を知らせた。

「ありがとう。もう下がってよいぞ。お前も行け。」

そう言ってメドックを地下のシェルターに誘導した。

「では秘書が呼びに来たので、私はそろそろ彷徨いの谷に行かなければいけません。失礼します。」

「それならば我々もお暇しよう。」

皇帝もそう言って立ち上がろうとした時に村長の机にある一枚の写真が目に入った。その写真は村長と奥様とメドックと一人一人の名前が書いてある村の住人が写った写真だ。先ほど部屋に入って来た者の下に『メドック』と書かれていた。皇帝はそれを見た瞬間に全てを悟った。

「おい、村長。私を試したな。」

皇帝は村長を睨みつけた。

「何の事でしょう。」

村長は皇帝の顔を見ずに答えた。

「さっき、メドックは元気かと聞いたではないか?そのメドックは今、この部屋に来た村長の秘書だろう。」

低く地鳴りの様な声はとても不気味だ。

「あー、同じ名前だったのかもしれませんな。皇帝が無理やり自分の城に連れて行った若いのと。」

村長は顔色一つ変えずに答えた。

「ふざけるな。そういえばお前は瞬間移動が出来るんだったな。だが今、ここにコットが居るおかげで他の村人を守るための結界を張るのがやっとだろう。私達をどこかへ瞬間移動させる事は出来ない。その力が使えなければ、ゴミくずと同じだ。今、ここでお前の首をはねてやる。ハンナ達をどこへやった?見つけたらお前もどうなるか分かっておるな。」

そう言って皇帝は腰の剣を抜き村長に突き付けた。

「殺したければ殺すがよい。私が死んでも他の能力者がまた村長になり、皇帝の思惑通りには行かせない。連れて行かれた若い衆の仇であんたをいつか彷徨いの谷の怪物の餌食にしたやるわい。」

鼻の先に剣が当たっているが村長は微動だにしなかった。

皇帝はその態度に怒りが一気に沸き剣を村長に思い切り振り下ろした。



「はーい。そこまでー。」

皇帝の剣が村長の頭の一ミリ手前で止まった。そこから剣はビクともせずに全く動かない。

「ダメダメー。例え老人でも魔力持ちは殺さないで。そんなんだといつまでたっても皇帝の魔力が強くなる事ないから。」

そう言いながら入って来たのは、ロスタル侯爵だった。

「ロスタル侯爵、なぜここに居るのだ?」

皇帝はピタリと動かない剣を力いっぱい引き上げようとした。

「何故って、皇帝が呼んだのではありませんか。仕事がひと段落したから様子見に来ただけ。あれ?聖女様。こんにちは。なんか疲れてる?」

ロスタル侯爵はコットの頬っぺたをスッと撫でた。

「ロスタル侯爵!見ちゃいや!」

コットは手で顔を覆いロスタル侯爵に背を向けた。

「あ、こんにちは。」

ロスタル侯爵は村長にも挨拶をした。村長はその顔を見て驚いた。

「あんたはあの時の!」

村長はこの男が皇帝側の人間である事に気付いた。

「その節はどうも。お元気でした?」

ロスタル侯爵は顔色一つ変えずにいた。

「目的は何だ!」

村長は声を少し荒げた。

「目的?なんだと思う?……秘密。」

ロスタル侯爵はニヤリと笑い皇帝の横に立った。

「もう、剣降ろしていいですよ。」

その言葉と同時に皇帝の剣はスッと降りた。

村長はそれを見た時にとてつもない恐怖を感じた。このロスタル侯爵の持っている魔力は一種類ではない。恐らく何種類も使えるのだろう。今までそんな力を持った者を見た事がないので自然と体が震えた。ロスタル侯爵の狙いがハンナの力だとすればとんでもない事になるに違いないと考えた。

「どうもお邪魔しました。僕は先に帰ります。」

村長の想いとは裏腹に、ロスタル侯爵は仮面の様な笑顔で去って行った。皇帝はまだ魔法が効いているのか腕が痺れた様子で動けずにいる。

「デグラス皇帝、貴方にいつか仇を打ちます。」

村長はそう言い残して部屋の奥に入って行った。

「クソっ。覚えてろよ!あの老いぼれと若造めが!」

皇帝は血管が浮き出る程に怒り狂っていた。

「もう!早く帰りましょ!」

そう言ってコットが皇帝の手を引き兵士が脇を抱え村を後にした。


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